先日放映された、テレビ東京「主治医が見つかる診療所」にて取り上げられた、食材の栄養をすべて役立てる料理の王様、「けんちん汁」の調理法を詳しく解説致します。
ここで紹介した調理法は一例で、具材の切り方や加熱の仕方、手順などはさまざまです。自分の作りやすい方法でかまいませんし、用いる具材もわざわざ揃えなくて良いのです。冷蔵庫の隅に残った食材を無駄にしないで使い切る、という精進料理の精神が活かされていることが肝心です。テレビでは「小松菜の根」が例として出されましたが、根がなければ無理して用意しなくても良いのです。
基本的な手順さえおさえれば、使う具や味付けはアレンジ可能です。ただし、単一の食材だけを使うよりも、できるだけ多くの具材を使うほど風味が深まります。
まず木綿豆腐に重しをかけて水切りします。クッキングペーパーを何枚か重ねるか、きれいな布などで包みます。
重しをかけて30分以上待ちます。漬けものの重しが便利ですが、水を入れたペットボトルなど、上手に工夫して下さい。重さが均等にかかるように、まな板など平らなものを上にかぶせてから重しをかけると良いでしょう。
待っている間に具材を切ります。
こんにゃくを薄切りに。乱切りでもかまいませんし、スプーンでちぎって不定形にしても良いです。
人参は皮をむかず、たわしでよくこすって皮の汚れを取ればそのまま使えます。皮の裏あたりの濃い栄養を無駄にしないようにしたいからです。
小さめの乱切りにします。根菜類は形を揃えると全体のまとまりが出て口当たりが良くなります。いちょう切りにするなら他の根菜もそうすると良いでしょう。
ごぼうも表面のドロをたわしでこすって乱切りにします。牛蒡は硬いので小さめが良いと思います。
じゃがいもも同様に皮をむかずにたわしでこする程度にします。ただし芽の部分や緑色の皮は有毒なのでしっかり取り除きます。
さつまいももかわごと乱切りにします。
里芋は皮をむいて乱切りにします。里芋を加えると自然なとろみが出てまろやかになります。
カボチャも皮ごと乱切りにします。甘みが出ます。
大根も皮ごと乱切りにします。
キャベツはざく切りにします。芯は細かく刻みます。季節によっては白菜を使います。
キノコ類も、ねもとの部分もなるべくギリギリまで刻んで使用します。
切った具材を15分ほど水に浸けます。
するとアクが出るのですすぎます。みてくださいこの色を。
なおダシに使った椎茸や昆布があればそれも刻んで加えます。
昆布はぬめりがあるので手をすべらせないように気を付けて切って下さい。
具材を切っている間に豆腐の水が切れました。このように、厚みが半分ほどになり、締まりました。
手で細かくつぶして鍋でから煎りします。火加減は強火です。
焦げないようによく混ぜ、5分ほどすると水分が完全に飛んで、豆腐が粒状に固まってきます。煎り豆腐のような感じです。
粒状に固まった豆腐を鍋のはじによせ、空いた部分に胡麻油を少し加えます。慣れない方は豆腐を一度別の容器に移してもよいのですが、そうすると豆腐がさめて大きな固まりになってしまいほぐすのが大変です。そのため私ははじに寄せて炒めるお寺式の方法をよく使います。
胡麻油が暖まったら具材を加え、よく混ぜます。この時豆腐が固まりにならないようによくほぐし混ぜます。
具材全体に油が回ったら塩を加えてさらによく混ぜ、弱火に落としてフタをします。
そのまま10~15分ほど蒸すと具材から汁気が出ます。これがけんちんの味を決めるポイントです。
中火にし、そのまま10分ほどよく混ぜながら炒めます。
酒、みりんを加え、昆布ダシか椎茸ダシを加えます。このとき、ふつうの汁のようにたっぷりの水分を加えてはいけません。けんちん汁は具だくさんの汁なので、水分は少なめで良いのです。さきほど蒸した際に染み出たうまみたっぷりの汁をあまり薄めないようにしたいのです。
ただし完成してすぐに食べない場合は、冷える時に具が水気を吸ってしまうのである程度多めの水分量にした方が良いでしょう。
強火に上げて沸騰させ、沸騰したら弱火に落とします。もうすでに具材は充分火が通っていると思いますが、念のため牛蒡など硬い具材を確認し、火が通っていたら仕上げにしょうゆを少し加えて味を調え、残り物の青み具材を散らしてできあがりです。
基本的にはメインとなる根菜を中心に、数種類の野菜を加えた方が味に深みが出ますが、紹介した野菜すべてを揃えるのではなく、手元にあるものや、他の料理で出た切れ端や皮などをうまく使い切るようにします。その工夫こそが「精進」なのです。