◇「手作り精進生麩」の魅力と概要
今年は春のお彼岸最終日が土曜日にあたりました。お時間がある方は、普段なら作らないような、手間がかかる本格的精進料理に挑戦してみませんか。
生麩を手作りするのは禅寺では古来伝えられてきた伝統料理ですが、最近は専門店が作ったできあい品を使うお寺も増えてきました。一度も作ったことがないまま修行を終えてしまう修行僧もいるようです。かなり高度な料理ですが、伝えていきたい技の一つです。市販のものよりも、自分で手作りする方が格段に美味しく仕上がります。
こねた強力粉の固まりを、水ですすぐ調理過程を経験したことがない人は、え!粉を水で洗うの??ととても驚きますが、この行程が生麩作りで最も重要です。濡れても全く問題ありません。しっかりこねることで、余計な成分が洗い流されて、必要なグルテン成分だけを抽出させるのです。
そのグルテン成分を油で揚げた後に、煮汁で煮染めます。やわらかモチモチの、身が締まった食感に、和のダシがジュワッとあふれ出します。
精進料理でよく使われる類似の麩で「大徳寺麩」があります。ある程度共通の手順で作られますが、煮る前に下ゆでする過程などが加わり、また味をしっかり内部まで浸みさせるために日数をかけて煮詰め、内部まで色がついた濃い味の仕上がりとなります。今回はそこまで味を染みさせることはせず、煮物として美味しく頂ける調理過程を紹介しました。
なおネーミングについて、大徳寺麩が商標登録されているからか?大徳寺麩と似た麩を、各食品メーカーがさまざまなネーミングで売りだしています。禅定麩とか、揚げ生麩とか・・私が師事した典座老師はこの調理法を「精進麩」と呼んでいたので敬意をこめて私もその名称を受け嗣いでいます。
同様の麩を「利休麩」と呼んでいる場合をみかけますが、一般的に和食では利休麩というと、胡麻をちらした生麩か、または千利休が茶会で出した焼麩のお菓子を指す場合が多いので、私個人はこの麩を利休麩と呼ぶのは誤用ではないかと思いますが、ネーミングについてはある程度個人の事情や考えもあるのでまあ他人の呼び方までは関知せずという立場です。
アクセントとして溶いた和辛子を添えます。チューブのからしも便利で良いのですが、やはり辛さは揮発してしまうので使う直前に自分で溶いた粉からしの方が、風味や辛味は格段に違います。水よりも、40度付近のお湯で溶いた方が辛味がよく出ます。溶いてすぐに使わない場合は湯飲みを逆さまにしたりラップをかけて揮発するのを防ぎます。
◇「うどの皮のきんぴら」を添えて
前回紹介したうどの皮をきんぴらにして彩りとして添えました。うどの緑色を活かすためにしょうゆを少なくして塩で味を調えます。うどを合わせる必要性はないので、もしちょうど うど料理を作っていなければ他の緑色系の野菜を添えてもよいでしょう。
捨ててしまいがちな皮も、こうして手間をかけることで無駄にせず使い切ることができます。食べることができる食糧を無駄に捨ててしまう食品ロスが社会問題化している今、精進料理の食材を大切にし、使い切る心に注目して欲しいと思います。お彼岸最終日にあたり、仏教の心に触れることもまた供養の一環なのです。
◇「手作り精進生麩」のレシピと調理手順
1 強力小麦粉500g、塩小さじ1/2をボールでよく混ぜ、40度くらいのお湯400mlほどを加えて手で混ぜて玉にします。
一度に400ml加えてしまうとまとめにくいので、30mlほど残して混ぜ、ある程度まとまってきてから残りを加え、端の方に残った粉を最後に混ぜる感じで水を使うとやりやすいでしょう。なお粉の水分(乾き具合や湿気)によってまとまり方が変わるため、ぴったり400mlにこだわる必要はありません。状況によって増減させてかまいませんが、初心者はどうしても水を増やしてまとめようとしますが水が増えるとベトベトになってしまい逆にまとまりにくくなってしまいます。慣れないうちは、9割水を加えた後は少しずつ水を加えて様子を見ることが大事です。
↓ パンつくりなどにつかう、強力粉を使います。薄力粉よりも、グルテンを多く含んでいて、弾力や粘り気が強い粉です。価格はそれほど高くなく、1kgで2~400円ほどです。
両方の手のひらで、グイグイ押すようにしてもみ固めてまとめていきます。ただまとめるだけでなく、力をかけてこねる感じです。
2 うまく一塊になったら1時間ほど室温で寝かせます。
3 大きなボールに入れ、2のかたまりを大量の水で揉み洗いします。
ボールにたくさんの水を貯め、両手でもみあげるようにすると水が白く濁ってきます。
写真を撮る都合上片手でもんでいますが、両手でしっかり何度も何度ももみあげます。 固まりが水で溶けてしまうことはありませんので、手が疲れるくらいしっかり何度ももみ洗いします。
4 水が濃い真っ白になったら流水で流し、新しい水に替えて再度同じ行程を6~8回続けます。
↓ 3回繰り返した状態です。はじめは滑らかだったかたまりの表面が、脳みその??ようにデコボコ状になってきています。
↓ 7回繰り返した状態です。水は当初のように白く濁りにくくなり、かたまりの表面は細かいデコボコ状になり、大きさも2/3くらいに小さくなりました。
これが抽出されたグルテン成分です。
5 まな板の上に置き、ビヨーンと伸ばします。
6 伸ばしたら手でちぎって、小分けします。今回の量で大きめ6個作れます。小さめにちぎれば8~10個に分けることもできます。
7 一度濡らして良く絞ったフキンでポンポンして水気をしっかり拭き取ります。乾いたフキンやクッキングペーパーだと貼り付いてしまいます。水気が残っていると油がはねるので、気をつけながらしっかり水を切るようにします。
8 170度の油で素揚げします。熱が加わると、倍近い大きさまでプクーと膨れるので油面に余裕を持って鍋と油を用意して下さい。
片側に火が通ったら、裏返して全体をまんべんなく揚げます。内部に火が通るまでかなり時間がかかるので、通常の揚げ油よりも少し低めの170度近辺で、3~5分ほどかけてじっくり揚げます。
破裂することはありませんが、状況によって保証はできませんので心配なら膨れた際に箸の先でつついて空気穴をあけてください。
今回は新しい油を使ったのであまり色が濃く見えませんが、ある程度使った油だと5分ほど揚げるときつね色に仕上がります。揚げ網にあげて2~3分ほど余熱を通します。
冷めると自然に縮んでいきます。
9 シンクなどに置き、熱湯をたっぷり全体にかけて油抜きします。湯気がおさまったらクッキングペーパーでざっと水気と油気を拭き取ります。
熱いお湯でないと効果がありません。また、油抜きが足りないと煮汁が油っこくなってしまうので、サッパリした仕上げにするためにもこの行程は重要です。
10 昆布だし500ml、砂糖大さじ2~3、酒大さじ3、みりん大さじ1、しょうゆ大さじ3を沸騰させ、煮汁を作ります。
11 12の麩を煮ます。再沸騰したら弱火にし、落としぶたをのせて20~25分ほど煮て火を止め、味をなじませます。
12 粉からし小さじ1~2を湯飲みに入れ、40度くらいのお湯を小さじ1程度加えて箸かスプーンで混ぜ練ります。
13 うどの皮をかつらむきにし、細切りにします。炒めるのでアクはあまり気になりませんが、アクが強いうどであれば前回紹介した片栗粉を溶いた水に浸けてアクを抜き、水気をしっかり切っておきます。
今回はうどの皮100g分を使いました。
14 フライパンに油小さじ1をしいて熱し、16を炒めます。
15 油が廻ったら酒大さじ1、しょうゆ小さじ1、味をみながら塩少々を加えてよく混ぜます。
16 麩は食べやすくするならばあらかじめ切って盛り付けます。18のきんぴらを添え、15のからしを載せていただきます。