電話をかけるときはまず名乗りましょう

私が子供のころ、「電話」というものは特別な道具で、必要時以外は触ってはいけないと両親や祖父母から厳しくしつけられていました。一般のご家庭はどうなのかはよくわかりませんが、とにかくお寺にとって電話というのは非常に大切な、いや「神聖な道具」といっても言いすぎではないくらいの扱いでした。


もし友人と長電話なんかしていたら、祖父のカミナリが落ちました。というか、電話を使う際には住職である祖父に使用許可をとってから使うのですが、かけて1~2分くらいすると、祖父が電話の回りをウロウロと監視し、とても長電話などできない状態でした。(そのため、中学生ごろに女の子に電話するときなどは、走って10分以上離れた公衆電話まで小銭をにぎって走ったものです)

理由は前回も書いた通り、お檀家さんがお葬式の連絡をしてきたときに、お寺がずっとお話し中だったりすると大変な迷惑がかかってしまうからです。実際、「ああ、やっとつながった!さっきから何度もかけたんだけど、ずっとお話し中だったもので・・」とお叱りを受けることがあります。
一刻も早くお葬式の連絡をとらなければ、と思っておられるご遺族の方からすれば、実際には5分くらいのお話し中でも、非常に長く感じるのはよくわかります。

時はうつり、私は永平寺に上山したわけですが、永平寺内にも電話に関する厳しい決まりがありました。細かい決まりをいちいち紹介しませんが、大事なことは
「まず自分の所属部署と名前を正確に伝える」
「なるべく用件を簡潔にまとめ、速やかに電話を終える」
ということです。

永平寺はものすごく広いため、部署ごとに内線電話があり、必要があれば内線電話で連絡を取り合います。中でも象徴的なのは、寺務を統括する部署から、一日の予定が各部署に内線電話で通達される際の電話です。「本日の予定を申し上げます。○時○○集合草むしり作業、△時お昼のお経、昼食、□時□□集合、××老師による講義・・・以上、よろしくお願いいたします。(ガチャ)」(専門用語は訳してます)というように、ズラズラっと必要事項が述べられ、サッと切り上げられます。

決していじわるをしているわけではなく、その連絡を回す係の人だって、数十の部署に限られた時間で素早く連絡を回さなければいけないのですから、どうしても早口になるのです。もちろん、長々と電話なぞしていたら、他の重要な連絡がお話し中でつながらなくなってしまいますし。
ですから、予定の連絡の電話を受けた際は、全神経を集中して聞き逃さないようにメモをとる習慣が体に染みつきました。

要するに、「電話をかける・受ける」ということは、私にとって一種の緊張を余儀なくさせる、特別な行為でした。

さて、時代は変わり、携帯電話やメールなどの通信手段が発達し、便利な世の中になりました。
一人一台携帯電話を持っているせいか、かつてよりも気楽に電話をかけられるようになったような気がします。条件を満たした相手となら、いくら通話しても通話料金がかからなかったり、またキャッチホンやお話し中録音機能のような便利な機能も身近になりました。

便利になったのは良いことだと思いますが、どうも電話が身近になった反面、電話に関するマナーがいいかげんになったような気がするのは私だけでしょうか。

マナーというのは人によって価値基準が違うため、いちいち気になる例を全て挙げたりはしませんが、私がどうしても気になるのは、電話のはじめに名前を言わない人が非常に増えてきた、ということです。
これはおそらく、携帯電話の普及が関係しているのではないかと思います。
携帯電話は、着信すると、登録さえしていれば相手の名前が表示されます。だいたい、携帯電話が鳴ると、出る前に誰からかな?とディスプレイを確認しますよね。
もちろんそういう場合でも、かけた方がまず名前を名乗るのが礼儀だとは思いますが、携帯電話に表示されているからいちいち名乗らなくても良い、と思っている方が多いようなのです。

親しい間柄どうしだったら、「おっす、俺だけど」で話し始めても良いとは思いますが、それに慣れてしまい、公的な電話までいつものクセでそう話してしまう人が多いのかも知れません。
「オレオレ詐欺」なんていう言葉が流行るのも、名前を名乗らない電話が増えていることを如実に表していると思います。
私などは、電話をかけたら「もしもし、こちら永福寺の高梨と申しますが・・・」で話し始めるのが習慣になっているため、最初に名前を名乗らない電話がかかってくると、非常に違和感を覚えます。もうそれだけで、怪しい電話だな、と強く感じますね。

ある程度年配の方なら、おそらく電話のはじめには名前をまず名乗る、というマナーは知っていると思うのですが、名前を名乗らずに、自分の言いたいことを延々と話される方が増えております。

「もしもし?○月○日は空いてますか?オヤジの三回忌をお願いしたいんですけどね、場所は自宅で、11時頃におがんでもらって、集まる人は30人くらいで、終わった後は食事の席を用意しますので・・・」
(途切れ目がないのでしばしこちらが口を挟めず、一通り言い終わるのを待って)
「あのー、大変恐縮ですが、地区とお名前をお願いできますか?」なんていうケースはしょっちゅうです。

こうしたお檀家さんからの電話であれば、百歩譲って、声でどなたからかわからない私の修行不足のせいだとも思うのですが、

「もしもし?あのー、この前新聞で記事を読んだのですけどね、精進料理をなさる和尚さんでしょ?わたくし非常に精進料理に興味がありましてね・・・(ペラペラペラ)」
というような、見ず知らずの方からも、一体あなたはどこの誰なのだ!と思ってしまう電話がたくさんかかってくるのです。

他にも、名前も名乗らず用件をバババーっとまくしたて、さっぱり言っている意味がわからないので

私 「あのー、どちらさまでしょうか?」と聞くと
相手「へ?田中ですがな!」
私 「??どちらの田中さまでしょうか?」
相手「□□物産の田中ですってば!」
私 「(はあ?)あのー、すみませんが、どちらにおかけでしょうか?」
相手「◎◎通信の山田さんでしょ?え?違う?そりゃ失礼しました、ガチャン、ツーツー」

というような、誠に時間の無駄な電話が年に数回かかってきます。間違い電話は仕方ないとしても、はじめに名前を名乗れば、その時点で間違いに気づくと思います。

やはり、まずはじめに
「もしもし、こちらは○○の△△ですが、永福寺さんですか?」
と切り出していただきたいものです。
そうすれば、こちらも「ああ、△△さんですか、いつぞやは大変お世話になりました、」というように、話が早いのです。
面識が無い方であればなおさら、
「もしもし、こちらは○○在住の△△と申す者ですが、お初に御電話いたします。実は住職の記事を新聞で読みまして、少々お聞きしたいことがあり御電話いたしました。今お時間よろしいでしょうか?」というように切り出すのが良いかと思います。

いや、ホントこんなこと書いている自分も情けないかぎりですが、正直言ってブログに、このような愚痴に似た記事を書かなくてはいけないほど、電話のかけ方が乱れているという実感です。

私が細かすぎるのでしょうか・・・

やはり、いくら便利な社会になっても、結局は人間対人間の世界です。電話が昔よりも身近な道具になり、気軽に扱えるようになったからといって、会話までもが気軽になりすぎてはいけないと思います。やはり、最低限の礼儀やマナーは守りたいと思いますが・・・いかがでしょうか??

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3件のフィードバック

  1. 桔梗屋 より:

    初めまして。
    いつも楽しく典座和尚様のブログを拝読しております。

    私も同感です。
    最近の人たちは電話に限らずマナーがなっていないと思います。
    「親しき仲にも礼儀あり」
    その言葉はもう古いのでしょうか?

    私は親にかなり厳しく育てられたので、マナーのなってない人を見ると怒りと悲しみが同時に沸いてきます。
    私の就業している会社でもそうです。
    特に上司がマナーがなっていないので、どうしたものかと考えてしまいます。

    日本人としての「奥ゆかしさ」「礼儀正しさ」が全くなくなり、なんだか悲しい世の中になりましたね。

  2. もり より:

    はじめまして。
    おっしゃる通りだと思います。
    本文の中に、ご自分のグログ内容を「愚痴」と、謙遜して書かれておりますが、
    決して愚痴とは思いません。
    こういうことは、声を出して伝えていかないと、教育していかないといけないと思います。
    言う人がいなくなれば、礼節の軸が、そのうちわからなくなります。
    たった今も、名乗りもせず、先にこちらの名前を確認しようとした電話があったばかりです。
    世の中はどうなっているのだ、と思いながら「電話・名乗り」で検索をして
    こちらにたどり着きました。
    びしっと指し示してくださっているので、自分の礼儀の感覚に自信が持てました。
    ありがとうございます。

    • 桔梗屋さん、もりさん、賛同コメントありがとうございました。

      よく、「常識や作法は時代と共に変わる」といいます。もちろんそうした面があるのは理解できます。そして、今若い世代ではスマートフォンでのやりとりの中で、なるべく短文で自分の意志を伝えるために、いちいち面倒な前置きなどを略するようになっています。
      たとえば「あざす」や「あざお」と3文字書いたらそれは「ありがとうございます」の略でお互い通じ、本文でさえも「おくちょ」と書いたら「送ってちょうだい」の意味です。
      そのため、そうしたやりとりに慣れてしまった人達は、「これが俺たちの常識だ、常識やマナーの変化についてこれない世代が悪い」と思い違いをしてしまいがちです。

      しかし、そもそもマナーや作法というのは、相手に嫌な思いをさせないためにお互い気を使う中で成立してきたものです。
      閉じられた自分たちだけの世界で通じる慣例は、仲間内で使うには楽しくて便利でしょう。しかし特にはじめて交流する方や目上に対しては、旧来のきちんとした礼儀で接するのが当たり前でしょう。
      たかが電話での応対だと思うかも知れませんが、その「たかが」くらいのことなのであればきちんとして欲しいと思います。
      当たり前のこともわからない方の為に少しきつく言えば、こちらは、自分でしていたことを中断して、わざわざそちらの用事のために時間を割いて電話に出ているのです。だからこそかける側にはそれなりの礼儀をわきまえる必要があると思います。

      そんな難しいことでなく、「もしもし、こちらは○○ですが」とほんの数秒いうだけで良いのですけど・・

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