手軽なメールだからこそ丁寧な内容で

電話ばかりでなく、メールでのやりとりでも、それはないでしょう、と思えるようなマナー違反が増えています。
前回、名前を名乗らない電話が増えていると書きましたが、メールでも同じことが言えます。


典座ネットあてには、ご感想やご質問などなど、たくさんのメールが届きます。とてもありがたいことですので、なるべく早めにお返事を書くように心がけているのですが、良くあるケースがこんな感じのメールです。

「典座ネット 管理人さま
はじめまして。私は精進料理に興味があります。
精進料理をならいたいのですが、うちの近くで料理教室を行う予定がありましたら、
是非参加したいと思っております。
お返事お待ちしております」

一見、丁寧なように見えますが、送信者の名前もご住所も書いていません。
これでは・・・返事の書きようがないじゃないですか?
「うちの近くで・・・」といわれても、どこに住んでいるのか、私は送り主のことを全く知らないわけですから。まあ、メールアドレスだけは、メールソフトの返信機能を使えば出そうと思えば出せるのですが、名前もわからない人に返事を書くのは正直気が進みません。

もちろん、初回メールからいきなりご自身の住所や電話番号を書くことに抵抗があるのはわかります。しかし、単なる御意見や感想であれば、まったくの匿名でもかまいませんが、「うちの近くで精進料理教室があれば教えて欲しい」という内容であれば、最低限お名前と、お住まいの県くらいは書いていただけないと返事のしようがないのです。

上記の例では、丁寧に書きましたが、実際にはもっと乱暴な内容で送られてきます。

「典座ネット管理人へ
本を読みました。一度会って話をしたいので、住所を教えてほしい」

なんていうメールも届きます。
悪意があるのかないのかさえ、短すぎてわからないメールです。
名前も何もわからない方に、住所を教えなくてはいけないのか・・・。
迷惑メール・いたずらメールなのか、本気のメールなのかさえ判断できない内容です。

なにも、「拝啓 紅葉美しき秋を迎えまして・・・」というような堅苦しいメールを書いて欲しい、といっているわけではないのです。メールだろうが電話だろうが、初対面の挨拶だろうが、最低限の礼儀や内容の確認は必要ではないでしょうか。
「パソコンに慣れていないので、長文を打つのが苦手で・・」という言い分もよくわかるのですが、それは手紙を書くことでも同じです。面倒だから、苦手だから、というのは少なくとも初対面の相手には通用しないと思うのですが、いかがでしょうか。

こうした、マナーや礼儀に欠けたメールは、世代に関係なく、幅広い年代の方から送られてきます。おそらく実社会では、きちんとした礼儀をお持ちであろう方が、どうしてメールの世界では非常識になってしまうのでしょう。

もしかしたら、メールという連絡手段が、手紙などと比べて手軽なだけに、内容までも手軽で良い、と誤解しているのかもしれません。

あるいは、メールに関するマナーについてよく知らないのかもしれません。
メールというのは、最近定着した文化ですから、メールマナーといってもまだまだ流動的ですが、一度はそうしたネット関係のマナーの本を読んでみることも必要な時代だと思います。

連日、少々愚痴めいた内容のブログになってしまいました。愚痴ついでに、最近経験したあるやりとりをご紹介します。

1ヶ月ほど前の9月中旬ごろ、あるコマーシャル関係の企画会社から、緊急の用件ということで連絡がありました。
かなり有名な会社が販売している、ある健康食品のテレビコマーシャルを作るので協力してほしい、という内容でした。通常のテレビCMだけでなく、今回その商品をPRするための30分ほどの番組を作るので、その中に出演して欲しい、といいます。
私一人が出演するわけではなく、いくつかの修行道場や、著名な方などがそれぞれの立場から商品に関する内容の出演を行うと言う企画だそうで、その中には私がよく知っている和尚さんの名前も何人かいました。
まあ、そういうことなら私でよければ・・・と協力する方向で話を聞きました。

「で、私はどういう感じの出演になるんですかね?」と慎重に内容を聞いたところ、「永平寺の先代住職さまは、非常に長命だったとお聞きしました。高梨さんも、先代住職さまに精進料理を作ってお出ししていたとお聞きしたので、精進料理のおかげで長生きだった、とコメントして欲しいのです」とのこと。

その話を聞いて、即座に「それは協力できない」と思いました。永平寺の先代住職といえば、すでにお亡くなりになった故人です。しかも、料理をお出ししたことがあるくらいの私の立場で、そんなコメントを出すのはおこがましいことこの上ありません。

法話や、本などの原稿などの中で、禅師様に料理を作った想い出話などを書いたり話したりすることはよくあります。同じテレビでも、堅い番組の中なら、場合によっては可能でしょう。ただ、あくまで、仏法を広める目的に限ると思うのです。

テレビコマーシャルとなれば話は別です。コマーシャルというのは、要するに商売そのもの、お金に直接関わる、ある意味なまなましい世界です。お亡くなりになった禅師さまを商売の引き合いに出すなど、モラルの上からも許されるべきではありません。(・・・と私は考えます。もちろん、別の御意見をお持ちの方もおられるでしょう。他の意見を否定するわけではありません)

「大変恐縮ですが、そうしたコメントを私が出すのは、難しいと思います。」とお断りしました。
なぜダメなのかを説明しましたが、先方もなかなか引き下がらないので、「もしそうしたコメントがどうしても必要なら、亡き禅師さまの側近だったおつきの方などにコメント協力を依頼するのが筋だと思います。側近の方がお話しするなら、曹洞宗内の誰もが納得するでしょう。逆に、私ごときがそんなことを番組で言ったら、非難囂々ですよ。そして、もし側近の方が、ダメというなら、それはもう誰に頼んでもダメなことなのですよ。そもそも、禅師様をそうした商品のコマーシャルにお願いすること自体、失礼ではありませんか?」と少々厳しく言いました。

その上で「御希望のコメントは、今も申し上げたとおり、曹洞宗僧侶のはしくれとして、引き受けるわけにはいきませんが、私にできることは、精進料理を作ることです。禅師さまに関するコメントは抜きにして、貴社の商品に関係するような食材を使った精進料理を作って、イメージをアップさせるような協力なら、お手伝いできますよ」と伝えると、
「もうあまり時間がないので、急いで検討して、10月初旬には、ご連絡します。もし高梨さんに精進料理の調理をお願いする場合は、○日~○日くらいに撮影をしたいので、念のため予定を考慮していただけますか?」ということだったので、その返事を待っておりました。

そうです、予想通り、もう10月の半ばもすぎましたが、何の連絡もありません。
いやー、本当に失礼な話ですね。

「やっぱり他の人が見つかったので、高梨さんの出演はキャンセルです」という連絡をするのは、確かに、すこし言いづらいことかもしれません。
でも、子供じゃないんだから、言いづらくたってなんだって、10月初旬に返答すると約束した以上、連絡をするのが仁義だと思います。こちらは言われたとおり、予定をあけて待っていたのですから。まあ、あちらの希望を断った時点で、私に依頼がくる可能性はほとんどないだろうなと思っていましたが、それでも連絡をすると約束した以上は、社会人としての責任があると思います。

おそらくそのコマーシャル番組はまもなく放映されるでしょう。普通だったら、こういう下話があったかどうかを、名前を伏せているとはいえ、ブログで公開するのは控えるべきなのかもしれません。しかし、この精進料理の世界は狭く、もしかしたら別の知り合いの典座和尚に、今後同じような連絡がいかないとも限りません。私と同じ悲しい思いをさせないためにも、あえてブログに書くことにしました。

なお、その商品を販売している会社の名誉のために付け加えれば、私に連絡をとってきたのは、販売・製造元のメーカー内部の方ではなく、そのメーカーからコマーシャルの作成を依頼された、いわば外注のCM作成会社のスタッフです。したがって、悪いのはメーカーではなくその制作会社の担当者なのですが、やはり発注元のメーカーの名前を背負って仕事をする以上、CM作成会社の方には、節度と品位ある大人の行動をお願いしたいものです。

さて、料理に関係ない話題が続いてしまい恐縮です。
次回は秋の精進料理献立を紹介したいと思います。

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コメント

  1. 小林肇 より:

    あまりにも便利かつ手軽ゆえこういうことが起きるようになってしまったのでしょうかねえ…。メールだって手紙の一種と思えば最低限度のルールは守れるような気がするんですけど…。