食事の席で和尚さんに相談するポイント

当地では、四十九日忌、一周忌、三回忌七回忌十三回忌などの法事は、まず自宅の祭壇か本堂、セレモニーホールなどで法要を行って参会者が読経中に焼香し、続いてお墓に移動して読経、そして時間によってはそのまま斎席(施主が食事をふるまう席)となる場合が多いです。

時間が許す限り、食事の席にも同席するようにしています。これは私が食いしん坊だからというわけ(だけ)ではありません。いやほんと、お経が終わったらすぐに寺に帰ってやらなくてはいけない業務がたくさんあるので、できるなら食事の席はお断りして急いで帰りたいのが本音です。実際、食事の席には一切つきあわないという主義の和尚さんも少なくありません。全部つきあっていたらとても時間が足りませんし、カロリーオーバーで身体を壊してしまいます。(実際私の様にもったいないからと残さずいただくと大変な事になります)それでも無理してなるべく出るようにしているのは、食事の席でないとできないいろいろな話を遺族とすることができるからです。

たとえば法要の日取りやそれまでに準備しなくてはいけないことなどは直接お話していますが、そうした一般的なことではなく、施主さんやご親族が不思議に思っていることや不安なこと、疑問などの相談ごとは結構たくさんあるものです。法事前の打ち合わせでは、重要な話だけである程度時間がかかってしまうため、ちょっとした相談ごとまで長く話している時間はありません。
しかし和尚が食事に同席すれば、だいたい料理がひととおり出終わるまで1時間~1時間半は確実に座っているため、施主さんや遺族も、今なら聞ける、と安心して相談することができるのです。

仏事というのは一応標準的なしきたりやルールがありますが、地域によっても大きく異なりますし、要点さえ抑えればその家の事情によって和尚と相談の上、アレンジすることができます。社会が複雑化する現代、昔の様にどの家も同じように仏事をつとめるような画一的なことは通用しにくくなっています。だからこそ食事の席ではそれこそさまざまな相談が飛び出ます。
たとえばよくある相談としては
「お墓に納骨するときはお骨を撒ける方がいいのか、骨壺のまま納めるべきなのか」
「お墓に塔婆が貯まって来てもう隙間がない。どうすれば良いか」
「仏壇にご本尊さまがいないが大丈夫か」
「仏壇のどの段に位牌を置くのが正しいのか」
「家族の都合で三回忌を命日前にできない。過ぎてしまっても良いか」
「父が亡くなる前日に、父からもらった腕輪数珠が切れた。何かあるのでしょうか」
「葬儀の際は急いでいたので遺影の写真に納得いかない。三回忌までに変えることはできるのでしょうか」
「観光旅行で別のお寺に参拝したら御祈祷のお札をいただいた。和尚さんのお寺のお札と一緒にして良いか」
「四十九日までに仏壇用の位牌を作ろうと思うが、後継ぎの長男は転勤で都会に出ていて、他家に婿に行った次男が地元に住んでいる。この場合位牌は何本作ってどこに置けばいいか」

まあこれらは寺の護持会報に記事を載せているのですが、まあちゃんと読んでいない方が多いのが現実です。特に、「お寺のことはじいちゃんに任せた」とじいちゃんが元気なうちは息子夫婦は無関心な家庭も多く、じいちゃんが急に亡くなって慌てる方もおられます。そういうお施主さんは護持会報を読んでないんですよねー。仏壇の引き出しに入れっぱなしだったりして。
あるいは、「護持会報もよく読んでいるのだけれどうちの場合はその記事とは微妙に事情が違うが、この場合どうなるの?」と一応確認しておきたい、という方もおられます。
その家ごとに事情が異なるため質問は多岐に渡るのです。

そういう質問や疑問点に答えるために同席しているのですから、こちらとしては質問は大歓迎です。
むしろ、せっかく食事の席に着いているのに、なぜか施主が和尚と離れたところに座り、帰るまで一度も近寄ってこなかったり、誰もなにも話しかけてこなかったりすることもたまにありますが、そういう家の場合は次の法事の時は食事に同席したくなくなります。ご飯を食べたくて座っているわけではないので、和尚にメシさえ出してりゃ問題ないだろ、というような態度では残念です。

そこでせっかくなので、そうした機会で和尚に質問する場合の心得をまとめてみました。

・タイミング~開席前
着席してすぐにいきなり長くなりそうな話をする人がいますがこれはNGです。
よほどくだけた少人数の席でないかぎり、皆が揃ったらまず施主が挨拶をして、どなたかを指名して献杯の発声をしていただき、席が始まる場合がほとんどです。セレモニーホールなどで食事をする場合は、司会の方が皆を静かにさせて施主の挨拶をアナウンスしてくれますが、料理屋さんなどの場合は号令をかける人はいないので、施主としては、皆が座って自分が挨拶をはじめるタイミングを見計らっている場面です。そんな中で大きな声で隣の人と長々と雑談を始める参列者は空気が読めなすぎです。最悪の場合、施主が待ちきれず挨拶をはじめているのにそれを聞かずにまだ隣の人と大声で話している無礼者さえいます。
これは相当のマナー違反ですのでご注意を。けっこうたくさんみかけますよ。

皆が揃うまで無言で待つ必要はありませんが、軽い世間話程度にしておき、施主が挨拶を始めそうになったらすぐに注目できるようにしておきましょう。
同様に、献杯前に和尚の席に行って相談ごとを始めるのもいけません。場がスタートするまで待ちましょう。

・タイミング~序盤は施主に任せて遠慮して
次に、献杯が終わってしばらくの間は、あまり席を移動するのはよくありません。
いきなり酒瓶をもってつぎ回り始める人もいますが、まずは施主が用意した食事を味わうべきです。
和尚としても、箸も持たないうちに相談ごとを始められると料理が冷めてしまって作った人に申し訳ない気持ちになります。
また和尚はまずは近くに座った施主と会話をしますので、それをすぐに親族が邪魔するのもよくありません。
施主との話を邪魔するかのように、別の親族がお酒をつぎにきてもあまりありがたくないのです。
参列者がとても多く、時間の関係でどうしてもすぐについで回りたい人は、施主が和尚と大事な話をしているようならスルーして他の席に先に行くべきです。

言うまでもないことですが、和尚さんと他の親族が話をしている間に割り込んで相談を始める人がいますがこれもまたいけません。前の人が終わったら入れ替わる様に近寄るようにしましょう。

それとさらに良くない例としては、会食中ずっと自分の席で料理を食べていて、料理も出終わってさあ和尚もそろそろ帰ろうかと席を立とうとするころになって「あのう、和尚さん聞きたいことがあるのですが」と声をかけてくる方。「どうしてもっと早く聞かないの!」と思われます。和尚も次の予定があって時間をみて退席するので、帰り際に声をかけるのは避けて食事中の良いタイミングで相談をもちかけましょう。

まあ要するにタイミングが大事なのは何ごとでも同じですね。

・内容
相談ごとはなんでもかまいません。
よく、「和尚さんにそんなこと聞いて本当にお恥ずかしいのですが」なんて言って話し始める方もいますが、そんな気遣いは不要です。なんでも好きなことをご相談ください。ただしこちらとしてもあまり難しいことは聞かれてもわからない場合もありますよ。

内容は何でも良いのですが、こちらとしてちょっと困る相談ごとのパターンとして、「説明が不充分すぎてわかりにくい」というのがあります。
自分では当然の前提条件でも、こちらは把握していないことがほとんどです。
ふだんからお寺とつきあいがある施主さん本人のことなら、ある程度お寺としても理解していますが、たとえば「施主の妹が東北地方に嫁いでいる。嫁ぎ先の亭主は次男で、その家は長男が家督を継いでいる。次男は長男の家とは別の県にアパートを借りて住んでいる。で、嫁ぎ先の義理のお父さんが亡くなって葬式があり、位牌をわけてもらったので仏壇を買おうと思っている」というような事情があったとします。
なのに「仏壇ってどうすれば良いんですか」だけ聞かれたのでは的確な答えができません。
その場合は「和尚さん、ちょっと相談があるのですが、ちょっと長くなるんですけどね、良いですか」と前置きしてその事情と関係をひととおり説明するのが大事です。
質問者本人にとっては当然のことでも、申し訳ないですが施主の妹の嫁ぎ先までは把握していない場合が多いです。それを聞けば、「なるほど、話はわかりました。どうしてその東北の和尚さんに聞かないのですか?」と話が先に進むわけです。
こちらが回答しても、小出しに「いや、でも妹は東北に嫁に行ったんで」「いや、妹のだんなさんは次男なんで」「いや、妹のだんなさんはアパート暮らしなんで」とか後から事情を追加されるとなかなかうまく進みません。聞きたいことの要点をよくまとめておくことが大事です。

また、「自分の意見を肯定して欲しくて質問する」パターンがあります。
これはこちらもそうした相談パターンを想定しているので、「ああ、この人は和尚さんに”それで良いんですよ”って認めてほしくて聞いているんだなあ」と推測して回答するのですが、だとしたらこちらにある程度それがわかるようなニュアンスを込めて言ってもらわないとちょっと困ることがあります。まあその場合こちらからいくつか追加的に質問してさぐってみるようにはしていますが。
なお肯定して欲しい質問であることがわかっても、肯定できないことというのももちろんありますよ。

それから相談ごとではないのですが話題として扱いに困るのが「自慢話」です。
「和尚さん、このあいだ俺は20万もする珍しい石の数珠を買ったんだよ!」なんていわれても「ほう!それは貴重ですね、今度見せて下さいね」くらいしか答えようがなく話が続きません。そんな高級な数珠が良いか悪いかの鑑定知識は普通の和尚にはありません。高いからご利益があるかと訊ねられても、まあそれは個人の主観ですしなんともいえないですね。他の人が聞いている前で否定するわけにもいきませんから困ってしまいます。

まあそんなところで、普段聞きたいなと思っていることは、落ち着いて話ができるチャンスには遠慮無く和尚さんに聞いてみるのが良いでしょう。それには法事の後の食事の席がもっとも適していると思います。

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