精進料理に国境なし

数日前からフランスの禅僧、M師が研修のためにここ永平寺別院僧堂にやってきました。

ネイティブはフランス語なのですが、英語も話せます。
英国留学経験のある雲水、T君がM師滞在中の通訳を任されることになりました。

M師はフランスにて出家し、フランスの禅道場で長く修行を積んでいたということで、お経も読めるし、応量器を使った食事作法もほぼ正確に行うことができます。
そのため、日本の道場の生活にも比較的スムーズに慣れ、数日で皆と同じく起居できるようになりました。

すなわち、作法についてはフランスの道場でも問題なく習得できるということの証明でしょうが、やはり一度は本場(?)日本で修行をし、その心を学びたいという強い願いにより、今回の来日となったとのこと。
かつては玄奘法師が中国からインドへ旅し、また道元禅師をはじめ、多くの祖師が中国へ渡り真実の仏法を求めたように、彼もまた多くの困難を乗り越え、固い決意を胸に、遙か欧州から海を渡って来たのです。
その熱心さと真剣さ、真面目さは我々日本の修行者も大いに見習わなくてはなりません。
本当に頭が下がります。


精進料理に国境なし

道場での生活には慣れたものの、やはり言葉の壁は高く、そうたやすく若い修行僧たちとうち解けるわけもなく、廊下で会ってもなんとなく互いによそよそしい空気を感じていました。
そこで私が一計を案じ、両国の交流のため、ここは一つフランスの精進料理を皆に作ってもらってうことにしました。幸いにも通訳のT君は典座寮員。わたしも片言くらいならなんとか英語が話せます。料理用語は専門的な単語なので、私もT君も辞書を片手にヒーコラ言って意思疎通を図り、みなで分担して調理し、苦労の末なんとか料理が形になりました。
フランス式の人参、大根の煮物と、ポテトのフライ、そして人参とセロリ、レーズンのサラダ、フランスパンに豆のパテ。(写真を撮る暇もないくらい忙しかったので出来あがりイメージはご想像下さい)

そして手間をかけたご馳走が広間に並べられ、修行僧全員を集めて、まずはM師が挨拶。
「この寺の皆は、とても親切。まるでわが家のように居心地良くステイしています。日本の友人たちと協力して調理した、この料理をどうぞめしあがれ」
今日だけは足を崩して、会話も自由にさせ、くだけた雰囲気での夕食。みな、料理を気に入ったようで、M師が「こんなに多く作るなんて、馬が食べるようだ」と作りながら言っていた心配もどこへやら、全てみなの腹に収まりました。そして一人が質問の口火を切ると、通訳のT君が口を休めるひまもないほど、修行僧たちが興味深い質問をM師に浴びせていました。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎました。やはり食べ物の力は偉大だと感じました。

皆、仲良くなるきっかけがなかっただけのようで、この夕食以降、以前のよそよそしさは消え、M師は道場の一員としてすっかりうちとけました。
中でも、調理場でともに食事を作った典座寮員は、M師とは単なる友人以上の関係になったように思えます。まさに、精進料理には国境がないと感じた一日でした。

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