適したタイミングで

地震発生から1週間が過ぎ、被害状況も徐々に明らかになってきました。
被災地の皆様にはあらためてお見舞い申し上げ、謹んで犠牲者の御冥福をお祈り申し上げます。

当寺では15日に護持会総会を開き、寺として東北関東大震災の被災者支援募金を実施することを決めました。現在世話人さん等がお檀家さん宅を回り協力を依頼しているところです。
現地の皆様においてはつらい状況が続いていることでしょうが、希望を持ってなんとか今しばらく耐えていただければと思います。

また報道されているとおり、当地でもガソリンが極端に不足しています。被災地のための燃料を優先させるべきであることは充分承知しておりますが、当地は山間地で公共交通がほとんどないため、通常の移動はどうしても自家用車に頼らざるを得ません。
決してわがままで言っているのではなく、日常生活に大きな支障がでています。

昨日からお彼岸に入りましたが、ガソリン不足で交通手段がなくやむなく法事を中止にしたお檀家さんや、遠方の親族が集まれず身内だけで行った方もおられました。
あるいは墓石が倒れ破損したお檀家さんが少なからずおられますが、石材店に修復を依頼したくてもガソリンの関係でなかなか工事が進まないようです。
「お彼岸なのに、御先祖さまに申し訳なくて・・」とお檀家さんが嘆く中、倒れた墓石の傍らで一緒に手を合わせるしかありませんでした。
もちろん流通関係者が全力で対応しておられることと思いますが、日常生活を送る上で、こればかりは一刻も早く平常に復帰することを切に望みます。

さて、ブログで当方の安否を報告したところ、多くの方(特に都内・関西方面で今までお世話になった方等)から励ましのメールをいただきました。たとえ短文でも、その優しいお気持ちに心が暖かくなりました。ありがとうございました。

その中で「こんな時だからこそ元気が出る精進料理のレシピをたくさん公開してほしい」というメールがいくつかありました。せっかくいただいたメールですが、これについては残念ながら同意することはできません。

どんな素晴らしい教えでも、それを説くべきタイミングというものがあると思います。

たとえば、今プロ野球の開幕時期について議論が起きています。電力不足により、日常生活に大きな支障が出ている今、果たして予定通り今月末に開催するべきでしょうか?
「野球を見て元気を出してほしいから」「プロ野球に関わる関係職業の方にも生活がある」「平常通り行うことに意義がある」というような意見もあるでしょう。もちろん多様な意見があっていいし、全会一致はありえないことです。

しかし野球についてはまったくの素人ですが、私個人の意見としては、一年に一度しかない高校野球などは別として、毎年行うことができ、試合数も調整ができるプロ野球であれば、せめて今しばらく延期するか、または膨大な電力を使うナイターは避けて日中に行うなどの配慮が必要ではないかと思います。

都内ですら電力不足で交通手段が安定せず、食品流通などに不安が残り、定時に職場に通うことすらままなりません。ましてやテレビも映らず、それよりも食料と暖房の確保に苦心している被災地の方にとって、プロ野球が予定通り開幕されるかどうかは二の次の問題ではないでしょうか。
今は、開幕戦を見て元気を出してほしいどころの話ではないように思います。

もちろん、もう少し落ち着いて、心に余裕ができたら、そのときはプロ選手の素晴らしいプレイが全国に活力を与えるときが必ずきます。
しかし今はまだそのときではないのでは、と私は思うのです。

プロ野球の例でお話しましたが、同様に、私個人に限って言えば、今はブログなどで精進料理レシピを公開するべき時ではないと思うのです。
当地でもまだまだ大きな余震が続き、食材も不足し、すぐ隣の県で起きている原発の状態も気になる中、落ちついて料理を作る環境ではありません。
ましてや被災地では、レシピどころの話ではなく、とにかく何でも良いから口にできるものを、という時期です。被災者のお気持ちを考えると、そんな中で平常通り精進料理のレシピを公開することは私にはできません。
すでに、現在連載中の朝日新聞「やさい流」精進料理レシピの今月分掲載が当面延期になりました。また、別の取材もいくつか延期または中止になっております。
けっして不安をあおるわけではありませんが、それが今の状況で、そうした現状をしっかり把握する必要があると思うのです。

繰り返しますが、ものごとにはタイミングというものがあります。
お釈迦様は、説法する相手によって話し方や話の内容を臨機応変に変えました。
その時々の雰囲気や、相手の状態を考えず、場違いな説法をしても意味が無いし、場合によってはしない方が良いときもあるのです。

今回の震災に関し、日頃の備えや事後の対応について、政府や電力会社等に対し不満や意見も多々あります。しかし今それを強く言ってもしかたないでしょう。まずはこの危機を力を合わせて乗り切り、そしてその後落ち着いてから責任論や改善方法をしっかり議論すべきだと思います。

今はしばらくじっとこらえ、再びおいしい精進料理レシピを公開することができる日を待って、できる範囲で精進を続けたいと思います。
そしてそれはそれほど先のことではありません。そう遠くないその日まで、しばらくお待ちいただければと思います。

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