包丁研ぎの重要性

「安いステンレス包丁は研げないからダメ」と嫌ほど繰り返しました。
一つめの理由は「研げない=使い捨てとなりもったいない、エコロジー的に×」だからです。
二つめのは「包丁というのは自分の用途に合わせて研いで使うもの」なので、研げない包丁では話にならないからです。

二番目の理由は初心者には今ひとつピンとこないかもしれません。
「新品の包丁が最も切れ味が良い」→「使っているうちに切れ味が落ちるので、元に戻すために研ぐ」というのは大きな誤解なのです。

たとえば最近は買ってすぐ使えるように、先を削った鉛筆が売られています。でもしっかり削って先をビンビンに尖らせた状態で売ると先が折れてしまうので、ほどほどに削ってあまり尖らせずに売られています。なので細かい絵や字を書くには自分で鉛筆削りを使って先を尖らせないといけませんよね。

イメージ的にはそれと似たようなもので、なんと市販の包丁は最高に研ぎ上げた状態では売っておらず、そこそこの研ぎ状態で売られているものなのです。


これは980円のステンレス包丁の刃先です。刃先部分が、約1ミリの幅でスーッと色が変わっているのがわかるでしょうか。これが機械でつけられた刃先です。手で研ぐとここまで同じ細い幅で研ぐのはなかなか難しいです。


こちらは1580円のハガネの菜切り包丁の刃先拡大です。やはり機械で研いだ特徴である同じ幅で刃先が削れているのがわかると思います。そしてまたザラっとしていて、微妙に刃先が細かくデコボコしているのがわかりますか。これは要するに荒く研いだだけの状態です。少しくらい荒い方が切れるように感じる場合があります。研ぎ棒でこするとこんな感じになりますね。

なぜ完全にきれいに研いだ状態で売っていないのかというと、鉛筆と同じようにあまり鋭く研ぐと在庫中に刃先が折れたり欠けたり危険があったりという理由もあるでしょうが、最も大きな理由は人件費と価格のかねあいです。

特に数千円の包丁というのはギリギリまで生産コストをカットしなければその値段では流通させることができません。ですからほとんどの生産工程が自動化されています。
ですので「刃付け」(刃先を鋭く仕上げる工程)も多くの製品では人間がいちいち研ぐのではなく機械で自動的に加工されています。

近年の優れた技術により、機械での刃付けでもある程度の水準に仕上げることができますが、やはり人間の手の微妙な感覚には機械ではかないません。かといって1本1本人間が研いでいたら人件費の関係でとても数千円では売れないでしょう。中には完全機械化ではなく、人間が手作業で研いでいる工場もありますが、いわゆる砥石でシャコシャコ研ぐのではなくて、グルグル回転するタイヤみたいな自動砥石に包丁を一定の角度で押し当ててチュイーンという感じで刃をつけるのです。
ともかく、1本づつ念入りに研いでいると製品単価が上がってしまうので、まあそこそこの状態で売っているというわけです。

そこそこの状態、といっても一般の人が使うには充分よく切れる状態なので実際はそのまま使っても大丈夫で、先が丸まって切れなくなってから研いでも良いのですが、やはりプロの感覚だと、鋭さもそうですが、機械で研いだ状態だと左右のバランスがおかしかったりして微妙に切りにくい感じがするので、まず使い始めにしっかり研いでから使います。


右側がプロ用の包丁、左側が量販店のステンレス包丁です。刃先の研がれている部分(光っている部分)の幅がだいぶ違うことがわかると思います。


機械研ぎの刃先は上の写真のようにごく先端部分の1ミリくらいが急に角度をつけて研いである感じですが、この図を見ればわかるとおり、先端の1ミリだけを研ぐよりもある程度幅をとって研ぐ方が先端が鋭利にできるのです。これはやはり手先の微妙な感覚を活かして砥石で時間をかけて研ぐしかありません。

ちなみにプロが使う包丁店では、お店に買いに行って包丁を選ぶと、その場で研ぎ師さんが包丁を研いで仕上げてくれます。つまり陳列状態では完全な刃はついておらず、お客さんが買った時点で、お客さんの好みやスキル、使用目的などのリクエストを聞いてから仕上げてくれるのです。(プロでない方が買う場合、要望がなければ一般的な仕上げで研いでくれます)
ですからプロ用の高級包丁店で買った場合は、おろしたての時からすぐに最高の切れ味で使うことができるのです。

なのでおろしたての量販包丁を使って「うわーこれ凄く切れる!」と喜ぶのはちょっと待って下さい。自分でしっかり研げるようになれば、もっと良く切れるようになるのです。

さきほど鉛筆のたとえを出したのでついでにいうと、鉛筆なら誰でも削って使うのが当たり前だということは知っていますよね?細かい字や製図に使うなら鋭く削るし、太く力強い字や絵画に使うなら太めに削ります。要するに自分の用途に合わせて調整するのが道具です。
電動鉛筆削り器では自分の好みに仕上げるのが難しいので、そうした調整をするには手で削るのが一番と言うことになります。
包丁もまったく同じで、自分で研いで使いやすく調整することが、料理中級者への第一歩なのです。

ましてやそのレベルとは遙か遠く、鉛筆の先がつぶれてもう字が書けないほど減っているのに無理に字を書いている人=包丁の先が丸まって切れなくなっているのにそのまま無理して使っている人がいかに多いことでしょうか。

次回から研ぎ方の基本を紹介したいと思います。

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