お盆ロードの山場・塔婆準備

毎日新盆宅へお伺いして読経する毎日が続く中を縫って、塔婆の準備を進めています。

お盆までに書き終えるために、六月末からコツコツと書いて準備しています。
お施主さんによって、先祖代々の文面を希望する方もいれば、戒名でかいてくれという注文もあり、裏面には施主名も書きながら一本ずつ丁寧に書いていきます。
私の場合、一度に続けて書けるのはだいたい3時間が限度です。それ以上は疲れてしまい集中力が続かず、失敗してしまう確率が上がります。またたとえば草刈り機を使った日は振動で腕がしびれてしまい書く事ができませんし、お葬式ができたり来客があったりと、なかなか思うようには進まず、例年この時期になってなんとかお盆に間に合う状態です。

塔婆(とうば)というのはご存じの通りお墓に立てるアレですが、もともとインドの言葉のストゥーパが語源です。

当時のインドでは遺体は火葬してお骨を川に流したり、(火葬せずそのまま川に流したりも・水葬)、あるいは山野に放置して鳥葬にしたりして自然に帰すなど、跡を残さない喪送の方法が多かったようですが、お釈迦様の遺骨や遺品を埋葬した地に弟子達が塔を立てて供養したのが広がり、お墓のもとができたと言われています。

この風習が日本に伝わり、ストゥーパ→卒塔婆(そとうば)という漢字があてられ、略されて「塔婆(とうば)」と呼ばれるようになりました。

類似のものに「墓標」があります。これは厳密には塔婆とは異なり、石の墓は高価でかつての一般庶民には手が届かなかったため、墓石の代わりに木の角柱に俗名や戒名などを墨書して埋葬地に立てて墓標としていました。そこに卒塔婆の風習が伝わって混和し、一般に石の墓が普及した後には塔婆のみを立てる仏教文化が醸成されて定着したのです。

つまり人が亡くなった後、残った遺骨自体にあまりこだわらない文化的土壌のインドと異なり、日本人は人が亡くなった後にも、ご遺体やご遺骨、遺品などにいたるまでとにかく故人のぬくもりが感じられる品は何もかも大切にする気質があります。
もし肉親の遺体を川に投げ捨てて処理しろ、と言われたら普通はなかなかできないでしょう。
最近ごく一部でご遺体を粗末に扱った猟奇的事件が報道されていますが、日本人の心から大きく外れた悲しいことだと感じます。

ですからそうした日本人の精神的土壌の上で、故人を偲ぶための「よりしろ」として、お墓が大切にされてきました。多くの方が、お墓にバケツと布を持参して、墓石を磨いて汚れや水垢を落とし、草を取ってきれいにしています。日本人ならではの繊細な気遣いといえるでしょう。

当地では、お盆が終わってお墓に故人の魂を送る際、新しい塔婆を持参してお墓に立てて供養する風習があります。清掃してきれいになったお墓に、美しい花と、木目がきれいな白木の塔婆を立てて荘厳すると心が落ち着き、清らかな気持ちでご先祖様へ手を合わせることができます。
逆に草も生え放題で墓石には苔がつき、塔婆も陽に焼けて色が黒くなって文字も判別できなくなり、半ば朽ちかけているお墓を見て、ああご先祖様がかわいそうだなと感じる感性もまた日本人ならではです。

塔婆は、亡き人への供養の気持ちを形に表したものです。
一年に一度、ほぼ全員のお檀家さんに、新しい塔婆をお渡しするために、あともう少しがんばって間に合うように書き上げます。

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