丹波焼の産地で精進料理のうつわを探す

兵庫県料理関連スポット見学の2箇所目は「丹波焼」の生産地です。

丹波焼は瀬戸、常滑、信楽、備前、越前と並ぶ「日本六古窯」の一つで、和のうつわを語る上では欠かせません。平安時代末期から穴窯式で焼かれていましたが、1600年代初頭に朝鮮から「登り窯」の技術が伝えられてから飛躍的に発展したといわれます。以降、京都奈良大阪など文化的政治的中心地と近い地の利を活かし、生活用のうつわを中心に栄えた産地です。
いつか機会があったら産地を訪れたいと切望していましたが、講演会場からは北に車で1時間ほどとのことで、時間的には閉店ギリギリ夕刻になってしまいましたが無理して訪問してきました。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

これが立杭窯で、要するに傾斜地に沿って細長く窯を設け、下の方で火を焚いてその熱が斜面を登って上に抜けていく様式で、これにより一度にたくさんの陶器を焼くことができ、温度調整の面でも便利なのだそうです。山間部であることは、燃料の薪を確保しやすいことと、またこの斜面を利用した登り窯を築きやすいという地の利があったそうです。土質自体はあまり陶器には適していないという解説を受けました。ということはそれにも増して交易地と近いことと、窯を設置しやすいこと、燃料の確保などの条件の方が重要だったのかもしれません。

芋虫の模様のような丸い孔は、窯の内部と通じている穴を埋めてある部分です。フタのように開けることができ、温度調整や空気の流通、あるいは中の確認などにも使うとのことです。穴から煙が出た後が黒くなっているのがわかります。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

この地域にはそれぞれ独立した50以上の窯元が集まっています。50以上というのはすごい数ですね。それだけ丹波焼の隆盛を表していると思いました。地域の中心にある陶器神社に是非お参りしたかったのですが残念ながら今回は時間の都合で叶いませんでした。

街道沿いには、下の写真のような窯元の工房やギャラリー、店舗がたくさん並んでいます。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

こんな感じで、それぞれ窯元が別個に店や工房を構えています。同じ丹波焼でも、窯元によって方向性や価格設定などが異なり、それぞれの個性があります。それを選ぶのもまた楽しいのですが、そうはいっても50軒もあると、消費者にとっては全部個別に回って品定めするのはかなり大変ですよね。それに個別のギャラリーに入って、「あれ、このお店はかなり高級志向だな・・ちょっと私のお財布的には厳しいな」と思っても、一度入るとすぐに退出するというのも気が引けますし、やっぱりさっきのお店のうつわの方が良かったなと思ってまた引き返すのも大変です。東京のカッパ橋道具街にうつわの買い出しに行った際など、隣接する別のお店を何軒も回るときこうした不便をいつも感じています。

今回訪問したのは、そうしたジレンマを解消すべく、この地域にある各窯元の製品を一箇所に集めた「陶の郷」(すえのさと)という素晴らしい施設です。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

訪問した時間が遅かったのでお客は私の他数組しかいませんでしたが駐車場は広大で、とても大きな施設です。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

駐車場から建物へ至る道には、各窯元が個性豊かに創作した「エコ灯籠」が林立しています。ソーラーライト?かLED灯の上に、穴の開いた陶器がかぶせてあります。夜になると点灯するのでしょうか?お寺の境内にもこんな風情のある灯籠があるといいなー、いつか整備する際には是非、と思いました。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

通路には陶器の破片が埋め込まれています。細やかなセンス、イイですねー。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

施設に入るには200円の入場料が必要です。展示スペースは二棟あり、丹波焼の歴史や特徴を解説するホールと、ゆったりとしたショーケース内に名陶が並ぶスペースとがあり、うつわ好きの眼を楽しませてくれます。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

通路の壁には、丹波焼のうつわにどんな料理を盛り付ければ栄えるか、一例が掲示されていました。これを眺めているだけで料理創作意欲がとっても刺激され、腕がうずうずしてきます。この掲示作品を集めたレシピ集が売っていないかと周辺を探しましたが見当たらず残念でした。この料理と写真の出来映えはかなりハイレベルだと思います。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

通路の壁にもこのような銘品がさりげなく展示されていました。できることなら手に入れて手元で愛でたい気持ちが湧きますが、やはりこれだけの品となると一個人がおいそれと所有するのは憚られるほどのオーラが漂っています。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

広大な敷地内には、窯のようすや、レストラン、あるいは焼き物を自作するための施設がありできることなら一泊二日くらいで焼き物自作を楽しみたいところですが、今回は時間の都合で諦め、今回の最大目的、陶器売り場に足を運びます。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

陶の郷 窯元横丁図面

「窯元横丁」と名付けられた広大な施設には、52軒の窯元が一同に会し、建物の中にさらに長屋風の建物が並んで、窯元ごとに区切られたスペースで作品が並べられています。

凡人の考えでいけば、わざわざ建物の中に一回り小さな別の屋根付建物をいくつも作るなんて無駄じゃないか、と思うでしょう。まあ確かにコストでいえば、大きな駅のお土産店スペースのように広い空間を適当に壁かなにかで区切れば機能的には足りるわけです。しかしこうしてあえて瓦屋根の長屋を設けることで、まるで京都や金沢、川越などの古い街並みのような、まさに和のうつわにふさわしいムード満点の異空間が出現していました。もうこの入口に立っただけで気分は最高です。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

こんな感じで窯元ごとに展示スペースが完全に別れていて、陳列方法や雰囲気も窯元のセンスによって大きく違います。八百屋さんや露天屋台のようににぎやかでざっくばらんnな雰囲気の窯元もあれば、シティギャラリーのように落ち着いた照明のもとでゆったり配置されたところもあり、ぶらっと一周するだけで軽く一時間はかかります。もう目移りしてどうしようもないほどの充実ぶりで、まったくの素人の方は半日くらい時間をとる必要があるでしょう。

こうしたたくさん並んだうつわの中から、効率よく後悔しない買いものをするには、

・自分がよく使ううつわの「形」を何種類か限定して、その形のうつわに集中して目を配ります。こうしたギャラリーでは、どうしても大きくて立派なものがキワだって見えますが、展示でイイなあと思うものと実用は違います。自分が使わない大きなお皿を買って死蔵する例はありがちですね。今回は直径20~30センチの平皿と、同じサイズでフチがあるうつわを集中的に買いたかったので、小皿やカップ系統はあまり目に入れないように・・。

・形で絞った後は、柄や色を選別します。模様のあるもの、色の濃いもの、薄いもの・・など自分が使いやすいものに絞ります。たくさん並んでいるとどうしても鮮やかな彩色や絵付けのうつわが目立ちますが、精進料理のレシピではあまり派手なうつわは合わせにくいため、実際に料理を盛り付けたらどんなイメージになるか、想像してみるのが一番です。派手なうつわでも、たとえば真っ白な大根のつまを敷いてお刺身を盛るなら料理の邪魔をしませんし、黒いうつわに黒いひじきを盛ったら埋もれてしまうわけですから。

・形と色で目標を絞った目でみると、自然に対象外のうつわは気にならなくなります。最後に肝心のお値段をチェックします。これが重要で、今回の総予算を常に念頭において買いものカゴに入れないと大変な事になります。やはり良い品はお値段もお高いわけですからある程度の費用は必要ですが、この値段でこれなら納得、という品を見つけるのが一番大切ですね。

そして数点は上記のチェックをわざと外して感覚の赴くままに冒険してみるのも大事です。どれも無難なものばかりではおもしろみがないですからね・・。

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

兵庫丹波焼立杭陶の郷

この窯元横丁の素晴らしい点は、消費者としてみれば一箇所で多くの窯元さんの作品をチェックできることです。52軒個別に店舗を回ったら大変な時間と労力です。ここで気に入った作風があれば、その窯元に直接行ってさらに多くの品を見れば良いわけです。また、複数の窯元が並ぶことで、販売元としても無茶な値付けをすることはできません。隣の売り場と比べて同じようなうつわがあまりに高ければ誰も買いませんから、互いの競争原理が働いて値段が安くなる傾向があるでしょう。窯元としても、まずここに並べた作品をアンテナショプ的にお手頃な価格で置いて、お客を自店に呼び込むことができるでしょう。あるいは売れ残った品などを破格の安さで処分したりと、お互いにメリットがあります。最近各地で流行の、野菜の直売所にシステムやメリットがたいへんよく似ているなあと思いました。

インターネットモールでも同様の効果が期待できますが、やはりうつわというものは実際に手にとってみないと質感や細かいニュアンスが伝わりませんから、モニター上の写真だけで注文するのは難しいと思います。私もネットショップでの注文では何度か痛い目を見ています。それに焼き物は一つ一つ仕上がりが違うため、見本写真と同じものはまず届きません。やはりこうして実店舗で直接選ぶのが最もよい方法です。ただ、これだけの品数が揃った店舗はなかなかないのが現実です。せっかく店舗に行っても取り寄せばかりでは意味がないですからね。こんなにたくさんのうつわが一箇所に揃ったこの理想的な施設、心から来て良かったと思いました。

時間があればもっとゆっくりうつわショッピングを楽しみたかったところです。料理好きにはたまらないお薦めの施設でした。お値段的にも満足、梱包も丁寧で破損しないようにバッチリ整えてくれましたし、店員さんも親切でした。またいつか、是非機会をつくって行ってみたいと思います。

今回購入したうつわです。特に下の写真のうつわはお気に入りです。このうつわにどんな精進料理を盛り付けようか、今から楽しみです。

丹波焼のうつわ

丹波焼のうつわ

記事が気に入ったら是非SNSでアクションをお願いします☆