セリと舞茸の辛子酢味噌あえ

精進料理では旬を大切にします。日本はその立地条件や風土の特性によって四季がはっきりしているだけに、季節ごとにさまざまな自然の恵みがもたらされます。

とはいえ現在は品種改良や技術革新、生産者の努力により、多くの農産物が、本来の旬ではない時期にも安定生産、流通できるシステムが確立されつつあります。たとえばトマトや胡瓜、ナスなどは夏が旬の代表的な野菜ですが、一年中スーパーで手に入れることができます。
したがって冬でも麻婆茄子が食べたくなれば夏まで待たずとも手軽にナスが買えるのは大変便利なのですが、やはり旬を迎えた食材は自然のパワーがみなぎっているため、食材本来の旬に買う方が値段的にも栄養的にもお薦めなのです。

ただ例外もあって、たとえばキノコ類などは本来の旬は秋ですが、秋の山野で自然に収穫されるキノコ類はいまや希少で、非常に高額です。むしろ、一年中工場で安定生産されるマイタケやしめじ、えのきなどの方がよほど安価な場合もありますのでその辺は一概には言えません。

ともかく、都市部に巨大人工建築物を密集させて多くの人々が暮らす現代社会で、森や川から離れてコンクリートに囲まれる生活では、毎日の暮らしの中で旬をなかなか感じにくい状況もあり得ることでしょう。だからこそ、先人たちが大切にしてきた四季折々の節目を大切にし、生活に区切りやメリハリをつけて明日もがんばろうとする年中行事や祭りなどをあらためて見直す必要があると思いますし、たとえば春になってタケノコや山菜が食卓に上がることで、ああもうそんな季節かあ、となんだかほっこりと心がなごみ、春の訪れを喜びながら箸をつけることで、ああ日本っていいなあ、とささやかな充実感を得ることが、心身の健康にとって大切なのではないかと思います。

さて、今回紹介するセリは、本来は春が旬で、冬の雪が溶けて暖かくなった4~5月ごろに収穫されるのですが、例に漏れず野生のセリは現在非常に貴重で、都市部では入手が難しくなりました。

そこで栽培ものが出回るわけですが、栽培する以上は利益を考慮しなくてはいけません。一般的にはお正月のお雑煮や七草粥などでセリの需要が高まる、12~1月が最も市場価格が高くなる傾向にあります。となれば生産者も当然その時期に合わせて栽培、出荷するため、そのころが一番お店で入手しやすくなるのです。また生産上の諸事情から、本来の旬の5月頃にはもうほとんど栽培のセリは入手しずらくなってしまいます。このように実際の旬と、栽培ものの流通時期がずれてくる現象は少なくありません。

上の写真が4~5月ごろ採れる自然の「野セリ」、下の写真が栽培のセリです。
もう見た目が全然違うのがわかるでしょう。野セリは「田セリ」などとも呼ばれ、きれいな水を好み、かつては田んぼの水を一時的にためておく水場の土手あたりに自生していたのですが、用地改良でコンクリート化がすすみ、田舎でもあまり見かけなくなってしまいました。当然野生ものは風味も強烈で、力強い大自然そのままという印象です。
ただ野セリはアクも強く、堅くてスジがある場合もあり、慣れない人では扱いに苦労しますが、栽培セリはある程度個性が抑えられているためにどんな料理にも合わせやすく、また流通しやすいようにまっすぐ均等にそろえて出荷されるため、誰でも扱いやすい面もあります。
どちらが優れているとかいう勝ち負けの問題ではなく、それぞれの個性によって使い分けるべきものなのです。
全国で郷土野菜として独自品種のセリが生産されているので、産地による特徴の違いを楽しむのも興味深いものです。

ということで、セリも今の時期を逃すともう来年まで味わうことができません。
まだ今期セリを食べていない方は是非どうぞ。

あえものというより、サラダ感覚でおいしくいただける辛子酢味噌あえです。セリが入手できなければ三つ葉や水菜、とうみょうなどで代用して下さい。
セリのちょっと泥臭いというか、野性味が強い少々クセのある風味には辛子酢味噌あえがよく合います。

1 昆布3gを200mlの水に一晩漬けてダシをとる。
2 マイタケ100gを一口大にほぐす。
3 ぎんなん10粒ほどの殻を割り、薄皮をむく。
4 人参30gを細切りにする。
5 薄揚1/2枚を熱したフライパンに両面押しつけて焼き薄揚にし、細切りにする。
6 セリを5㎝くらいに切り、よくすすいでから水気を切る。
7 1の昆布ダシ、酒大さじ2,みりん大さじ1,うすくち醤油大さじ1、塩少々で
2と3と4を5分ほど煮て火を止め、冷めるまで置いて味をなじませる。
8 和からし小さじ1~2をすり鉢に入れ、みそ小さじ1、絹ごし豆腐50gをつぶして加え、
さらに7の煮汁を大さじ1加えて良くすり混ぜる。味をみながら和からしを追加して
まず辛さを調整し、決まったら米酢大さじ2~3を加え、さらに次に塩を足して味を調える。
9 5と6,煮汁を切った7を8であえて盛り付ける。

マイタケの代わりに椎茸やしめじなど、他のキノコ類でもかまいません。かさを増すためには大根を千切りにして塩もみし、加えてもよいでしょう。その場合は7のあえしろを多めに作ります。
和からしや米酢は製品によって味が違うので、分量は味見しながら調整します。またからしが堅くて延びにくい場合は、煮汁を加える量を増やしてあえやすいトロトロ具合にしてください。

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