お彼岸中の珍事

ご無沙汰しております。
今年の春彼岸も無事おわりました。お彼岸中には、年回法要やお墓でのお経などの申込みがたくさんあり、毎日法衣姿であっちこっちと飛び回っておりました。

春のお彼岸終日となる今日、あるお宅に1周忌の法要をつとめて参りました。
1周忌や3回忌などの法事を、どこで行うかは、その地域によってかなり違います。
一概には言えませんが、おおむね都市部ではお寺の本堂で行う場合が多いようです。

一方当地では、ほとんどの場合、施主のご自宅で法事を行います。
お寺の本堂で行うのは一割あるかないかです。

自宅の広間に祭壇を設け、位牌や写真などを安置し、お供物やお膳を供えます。和尚は小型の鐘や木魚、香炉、塔婆などを持参し、お経をあげるのです。
自分が愛した、住み慣れた我が家で年忌のお経を上げてもらう、これは故人にとって嬉しいことだろうと思います。

なぜ自宅で法事をするかについては、いくつかの理由があります。
都会のようにびっしりと住宅地が広がっているのではなく、当地のような山地の場合、山がひらけた場所に家が何軒かまとまっていて集落を形成しているわけですが、だいたいその集落ごとに、昔からの墓地があります。
つまり、お墓がそれぞれの家のすぐ近くにあるのです。
(もちろんお寺の墓地や公営墓地などもありますけど)

そして、一周忌や三回忌などの法事に、施主の家族、親戚、知人などの他に、その集落の住民、つまり近所の人も招くのです。ですから法事にだいたい30~60人くらい、多いと100人くらいの人が集まります。
もしお寺で法事をするとなると、その大人数をお寺に連れて行くためのバスや、何台もの車を用意しなくてはいけないので、自宅で行う方が移動が便利だから、という意味もあるようです。

また、自宅の祭壇前でお経を上げた後、その集落の外れにある墓地にみんなで歩いて移動し、お墓参りもします。とうぜん和尚も一緒にお墓に行ってお経を上げます。
それからあと席(食事の供養)になるわけです。食事は、もう一度自宅にもどって自宅でテーブルをいっぱい出して料理を並べてもてなす場合もあれば、お店に移動する場合もあります。
もしお寺の本堂でお経を上げた場合、お墓へ移動するのが大変です。

まあとにかくそんなことで、当地では施主の自宅で法事をすることが多いのですが、
今日も施主のご自宅での法事でした。

今日は比較的人数が少なく、40人ほどの人数でした。
招かれた方は、まず一人づつ祭壇前の香炉にお線香を立て、故人に手を合わせます。
皆が一通りお線香を立て終わったあと、和尚がお経を始め、なかほどでお焼香の角香炉を回して、一人ずつお焼香をしていただきます。

私は、法事を始める前にいくつかのお願いをします。その中の一つが、携帯電話の音を切ってもらうことです。読経中や法話中にピロピロピロとか楽しそうな音楽が鳴ったりすると、せっかくの厳粛な雰囲気が台無しですので、必ずはじめに切ってもらいます。今日も例にもれず携帯を確認してもらってからお経をはじめました。

春間近とはいえまだまだ寒い当地、今日もストーブを焚いた中での読経でした。
ストーブの暖気が逃げないよう、戸や窓を閉め切った中、40人の方が立てたかなりの数のお線香と、さらに40人が一人づつ焚いたお焼香の煙で、部屋はモクモクでした。
しかし私はけむりで皆が嫌にならないよう、お焼香の抹香は白檀を使っているため、煙は立っているものの、良い香りで部屋が満ちておりました。
30分ほどのお経を終え、10分ほどの法話を行います。
今日の法話は「報恩」、故人への恩返しのお話です。

話が山場にさしかかり、一番盛り上がるところで、「ピーピーピー」と大きな音が。
「あれだけ言ったのに、誰か携帯切ってない人がいたのか。ハア。」と皆が思いつつ、
お互い顔を見合わせます。
しかし携帯の音にしてはやけに大きいなあ?

なんと、天井に取り付けた火災報知器が、煙に反応して鳴ったのです。
イヤーこれには参りました。あわてて施主が踏み台を持ってきて電源を切りました。

実は、ご存じの方も多いと思いますが、消防法の改正により、住宅用火災警報器の設置が義務づけられました。新築住宅では平成18年6月より施行、また既存住宅も各市町村の条例の定める日から適用になっています。

住宅火災のうち、約6割が65歳以上の高齢者が逃げ遅れてお亡くなりになっています。そのため、当地では行政の配慮により、高齢者のお宅の寝室には、家庭用の火災報知器を最近サービスで取り付けてくれていたようです。
しかし施主自身もそれを忘れていたのでした。

今までは火災報知器があるお宅は少なかったので、私も天井までは確認しませんでした。法事中に火災報知器が鳴ったのは住職になってはじめてです。しかし今後は、条例に従って普及が予想されますので、携帯電話同様、まずはスイッチを切ってもらわねば。

ちなみに、あれだけ煙が出ていたのだから、もっと早い段階で報知器が反応して鳴っていなければおかしいのですが・・・。
なぜか1時間近く経ってから突然鳴り出した不思議。

まあ、無料で取り付けてくださったのだからありがたいことなのですが、やはり無料だけあって性能的にはそんなに高級品ではなかったのかもしれません。
あるいは性能ではなく、なんらかの条件によるのかもしれませんけど。
しかし、こんなに反応が遅い報知器では、もし本当の火事の場合にはきっと手遅れですねえ、なんて施主と話して笑ってました。

ちなみにまだ続きがあります。
実はこのお宅、消防署の近くだったのですが、火災報知器の大きな音をあわてて止めた直後、消防署の出動サイレンがウウウウー!!と鳴り響きました。火災発生の知らせです。消防車がサイレンを鳴らしながら猛スピードでこちらに走ってくるのが見えます。

あらあ、もしかしてこの報知器の音が消防署に聞こえて、火事だと勘違いされて出動したのかな?あるいは報知器の音を聞いたお隣の奥さんが通報したのかも。
これは大変、消防署に連絡して、火事ではありませんと伝えなくちゃ~、誰か電話しろよ、と皆でオロオロしているうちに、消防車はその家の前を通り過ぎてもっと奥に進んでいきました。
後から何台も消防車がやってきて通り過ぎていきます。
どうやら奥の山で小さな山火事が発生したもよう。
このお宅に向かってきたわけではありませんでした。

いや、しかしまさにジャストのタイミングで消防車が来たので、そこにいた人全員が勘違いしました。
(ちなみに山火事は30分ほどで鎮火、けが人はいなかった模様です)

お墓参りのあと、あと席はもうずっとその話題で持ちきり。
こんな偶然もあるんだなあー、と皆で思い出し笑いをしました。
みんなの笑顔にいやされたお彼岸終日でした。

自宅で法事を行うお宅さま、どうぞ火災報知器に気をつけてください。

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