お椀に感謝の読経

暑い日が続いております。ここのところ、2日おきくらいで雨が降っています。もちろんこの時期の雨は作物にとって非常に大切なので、ある程度降らないといけないのですが、お墓での読経中に夕立が降ってきたりするとさすがに困ってしまいます。
そしてこの時期やっかいなのが湿気です。

台所には、湿気大敵なものがけっこうたくさんあります。
食品はもちろん傷むのが早くなります。ぬかみそなんて一日混ぜ忘れたらもうカビますね。あるいは塩や砂糖などが容器内で固まってしまったり、シンク下の戸棚内がカビたり、ステンレスが腐食したり。
ちゃんと輪ゴムをしたつもりでも、わずかな隙間から入った湿気のせいで昆布がしなしなになったり、とにかく湿気は困りものです。
だいたい、台所って食器棚とか、壁に収納スペースを付ける必要があるので、窓がリビングなどに比べて小さい場合が多く、網戸にしておいてもあまり風が循環しない間取りになっている家が多いと思います。なのでよけい湿気が貯まりやすいのかもしれません。

今まで湿気のせいで何度も痛い目に会ってきた私は、あまりに湿気が多い日は、いっそのこと台所の窓を閉め、除湿器をかけて湿気を取ります。これが驚くほどものすごいペースで水がたまるんです。かなり大容量の除湿器なのですが、一日3回くらい水タンクを替えないといけないくらいです。こりゃあこれほど湿気があればカビが生えるわ。

さて、この時期注意しなくてはいけないものがもう一つあります。
漆塗りのうつわ、いわゆる漆器です。

精進料理といえば漆。当方は以前から申し上げているとおりかなりの漆マニアで、赤・黒はじめさまざまなタイプの漆椀を収集し?その漆椀に精進料理を盛りつけてお出しすることを最高の喜びとしています。
ところが、この漆椀、ふだんからしょっちゅう使っていれば良いのですが、6月くらいから8月のお盆が終わるまではお寺が忙しくなり、その間使う機会はほとんどなく、棚に放置された状態になってしまいます。また、やはり来客には赤いお椀でお出しすることが多く、黒いお椀は場合によっては一年間全く使わないこともあります。
そうなってしまうと、この湿気が多い時期、漆のお椀はカビてしまうんです。

お椀のカビ1

お椀のカビ2
↑ 放置された漆器についたカビ。この状態ならまだ洗い落とせます。
内部に浸食したらもう手遅れ。汚れてなくてもカビはやってきます。

最近は漆になじみがない方が増えていますから、まさかお椀がカビるなんて、と思う方も多いかもしれません。しかし漆にはカビがつきもので、気づかないまま数年ほっておくと、このカビが内部まで浸食して白い斑点になってしまいます。こうなったらもう手遅れで、いくら洗ってももう落ちません。表面についただけなら、洗えば落とせます。つまり病気と同じで、早期発見が大切なのです。

道元禅師は『典座教訓』で、台所の道具やお椀類を大切に扱いなさい、と説きました。修行道場では、道具を自分の目玉と同じくらい慎重に、かけがえのないものとして扱います。ですから私は、「たかが道具」なんて思ったことはありません。大切に心をこめて使っていると、いつしか単なる道具をこえた愛着が沸いてくるのです。
最近典座教訓を語る僧侶が増えていますが、やはりこうして実際に料理の現場で、その教えに従って実践を積まないと、言葉に重みや説得力が出ないと思います。全く料理をしたことがないエライ高僧が、「えー、典座教訓にはですね、道具を大切にせよと書かれており・・」と言っても、そりゃあ口でいうだけなら簡単なんです。やはり、実際に汗を流してがんばった経験を通して、お話することが大切だと思うのです。
正直言って、たくさんのお椀を管理するのはそれだけでものすごい労力を要します。しかし、これも大切な典座の修行だと思ってがんばるのみです。

お椀を洗う
シンクにぬるま湯を張り、半日~一日漬けておきます。
本当は料理を盛ると一番良いのですが。
乾燥しすぎると割れたりはげたりするため、適度な湿気をお椀に与えます。

お椀を乾す
きれいに拭いて、並べて一日風にあて、乾燥させます。
すぐに積み重ねてしまうと丸い跡が残るので注意します。

木箱のお椀
特に高級な漆椀は木の箱に入れてあります。
中の半紙も湿気を吸っているので日に当てて乾かします。

お椀の台
このお椀の底の出っ張り(高台といいます)の部分に、
よごれが貯まりやすいので、柔らかいふきんでよくこすります。

使われることなく放置され、カビが生えてしまうなんて、お椀にとってこれ以上の無念なことはありません。そこで私は、毎年この時期になると棚のお椀を一度全部シンクに入れ、ぬるま湯に漬けてふきんですすぎ、汚れやカビを落としてキレイに拭き上げます。調理台に並べて一日風を通し、お香を焚いて短いお経を唱えてお椀に感謝の意を表し、再び棚にしまうのです。
よく国宝級の経典などを所蔵しているお寺で、一年に一度宝物のお経を蔵から出して日にあて、虫干しをしたりしますが、私の場合はそれのお椀版です。
かなりの量なので何日もかかる大変な作業ですが、これによって痛みも早く発見でき、またお椀を長持ちさせることができるのです。

皆さんのご家庭にも、どこかに漆のお椀が眠ってませんか。結婚式などの引き出物でいただいたお椀やお盆を、もらったまま包み紙にくるんで物置に忘れっぱなし、というのは良くあるケースです。箱の中で包み紙ごとカビているかもしれません。
漆椀はとても高価なので、手遅れになる前に一度確認し、できればしばらく日に当ててぬるま湯で洗い、良く日陰で乾かしてしまうと良いでしょう。
なお、梅の記事の続きは、もう少し日が経って汁が出てきた頃載せます。

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Posted by 管理主宰者・典座和尚