典座和尚の梅作り その2

梅を塩漬けにして梅酢が上がったら、梅干しに色をつけるための赤しそが出回る時期を待ちます。


群馬の場合は和歌山県などと比べて気温が低いため、梅がなる時期が遅いので、しそと梅が同時期に流通することも少なくありません。今年は榛名町で梅と同時に最高の赤しそも手に入れたため、ちょうど良いタイミングで漬け込むことができます。


今年はじめて使う葉の裏が緑色のしそ。直売所の店員さんいわく、この方が鮮やかな赤色が出るのだとか。まずはシンクに水を張って一晩おき、泥汚れを洗い落とします。


次にしその葉を茎からちぎります。この作業はものすごく手間と時間がかかります。
しかし自然な赤色を出すには欠かせない大切な手順です。こころをこめて一枚一枚ていねいにちぎります。葉をはずした茎の部分は、根が残っていれば土にうめればまた葉が生えてきます。残念ながらこれは根が切り取ってあったのでミョウガ畑の肥料にしました。


しその葉をたっぷりの水に3時間ほど漬けてアクを抜きます。そしてこれまた大変な作業ですが、葉の水気を一枚一枚タオルでふきとります。梅の漬け方のところで説明したとおり、水気はカビの原因。あとで絞るのだから、葉の場合は少しくらい水気が残ってもいいんじゃないかという人もいますが、万一かびて全滅したら大変なので手を抜かずコツコツと水気を拭き取ります。


梅の手順と同様に、使用するボールも35度の焼酎でアルコール殺菌し、続いて熱湯をふりかけて入念に殺菌します。


しそに粗塩をまぶし、よく混ぜて揉み込むようにして塩をなじませます。塩がしみるとしなしなになってくるので、葉が破れないように気をつけながら丁寧に揉み込みます。


しそ葉が柔らかくなったら一度ぎゅっと絞り、水分を出しきります。
この一番はじめに出る絞り汁はアクが多くどす黒いため、残念ながら色づけには使えません。
これは仕方ないので捨てます。


次にもう一度しそ葉をほぐした後、さらに塩を少しふってよくもみ、二回目の絞り汁を出します。
ここまでものすごい労力を経ているため、なんだか捨てるのは惜しいような気がしてくるのが人情ですが、この2回目の絞り汁もアクが多いので、梅に使うと味が落ちてしまいます。2回目は捨てずに使うという人もいるのですが、美味しい梅干しのためには妥協できません。残念ですが心を鬼にしてこれも廃棄します。


同様にもう一度ほぐし、わずかな塩を加えてさらによく揉み込みます。


3度目の水気をよく絞ったあと、しその葉を団子状に丸めます。これでようやく色づけに使うことができます。あれほど山のようにあったしその葉が、この時点で数十分の一の容量に減ってしまいました。


試しに梅から染み出た梅酢を注いでみると、鮮やかな赤色が!
人工的な着色では出せないやさしい自然の赤です。
こんな方法を考え出した先人の智恵に頭が下がります。


梅酢が完全に上がった梅を、殺菌消毒した保存用のビンに移します。梅がつぶれたりしないようにやさしく手で移します。もちろん手袋必須。


梅を移しながら、さきほどのしそを梅と交互の地層になるように加えていきます。


こうすることで、しそから赤い色がにじみ出てきます。この状態で冷暗所に保存して土用干しの時期を待ちます。

「梅漬けに失敗すると不幸が訪れる」と古くからいわれています。
今の時代、そんなのはなんの根拠もないつまらない迷信だ、と一笑に付したくなるところですが、私は長く伝えられてきた先人の言葉には、文字の表面をパッと見ただけではわからない深い意味が潜んでいると考えています。
前回、今回と紹介したとおり、こんな小さな梅干しでも、それ作るにはものすごい労力が必要です。それはどんな食品や料理でも同様なのですが、とりわけ梅干しは、手間を惜しんで手抜きするとそれが即失敗につながります。たとえば面倒くさがって消毒を略したら、それはカビによる全滅をもたらすでしょう。

私はこう考えます。
梅をしっかり丁寧に漬けるには、静寂な心で梅だけに集中しなければうまくいきません。そのためには、梅干しに集中できる落ち着いた環境が必要です。ドタバタしていたり、あるいは怠けようとする自分の心にまけて手抜きをしてしまうと、カビが生えて失敗する。
だから梅がかびたことで不幸がやってくるのではなく、梅をきちんと漬けられないような年は、精神状態が悪かったり、生活が乱れたりしていることの表れであり、そんな落ち着きがない時には予期せぬ事故やトラブルが起きやすいから、一度じっくり自分の生活を見直して足下に注意しなさい、という警告の言葉ではないかと。

ですから私は毎年梅干しを作るときはこの言葉を想い出し、坐禅をしているときと同じ心で、雑念を払い目の前の作業だけに集中し、一つ一つ心をこめて梅を漬けるのです。
これは梅干しだけでなく精進料理すべてに、いや人生にまで通じる尊い教えだと思います。

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