小浜市お箸のふるさと館で漆塗箸自作体験

寺の住職は滅多に寺を留守にできません。遠方の都市に行く機会があれば、せっかくなのでなるべくその地方の文物、特に食に関わる伝統に触れる機会を持つように努めています。

今回面山禅師二百五十回大遠忌のために福井県小浜市に行くにあたり、法要は午後からだったため午前中に市内の箸作り体験工房に立ち寄ってきました。

小浜市はアメリカのオバマ大統領就任時に、読みが同じだということでメディアによく紹介されていましたので聞いたことがある方も多いでしょう。

古くは日本海で採れた海の幸を京都へ運ぶ要所として、京都と深い交流が行われ、国宝級の文化財も多い歴史を感じさせる町です。京都のような造りの家がズラリと建ち並び、歴史の重みを感じさせます。

福井県小浜市

福井県小浜市

港には多くの釣り人が糸を垂らしていました。小鯛の笹漬けという、小さな鯛をおろしてそのままの形で、笹とともに木樽で酢漬けした名物は大変有名です。

福井県小浜市

福井県小浜市

港のすぐ近くには製氷工場?らしき作業場があり、忙しそうにフォークリフトが行ったり来たりしていました。大量の氷がコンベアーで運ばれて巨大なコンテナにザザーっと移され、これが港の売店やら船やらに運ばれていました。

福井県小浜市

釣り場の近くには立派な鳥獣供養塔がありました。生命に感謝して、自然と共生してきた先人の心を感じます。

福井県小浜市

小浜市には「人魚伝説」が残されています。

昔、正体不明の奇妙な男が小浜の港にやってきて、これからお世話になる地元の人達に御挨拶をしたいからと皆を宴会に招いたそうです。村人が偶然台所を覗くと、なんと人魚がまな板の上にのせてあり、さばかれている最中だったとか。奇妙な男は、「古来、人魚の肉を食べると不老不死になるといわれています。さあどうぞどうぞ」と皆に人魚の肉で作った料理を薦めましたが、気味悪がって誰も手をつけません。男は、帰ろうとする村人たちに「では是非お土産としてお持ち帰り下さい」とその料理を持たせて返しましたが、村人たちは怖がって帰り道で捨ててしまいました。

しかしある者だけは食べ物をそこらに捨てるのはしのびないと、料理を家に持ち帰り、後でこっそり片付けようと思って置いていたところ、お腹をすかせたその家の娘が、人魚の肉とは知らずにうっかりその料理を食べてしまったのだそうです。

娘は知らずに不老不死の身となってしまいました。家族が先立っても、自分はいつまでも老いることがありません。自らの不遇を嘆きましたが、やがて運命を受け入れて比丘尼(尼僧)として出家し、全国を廻って困った人々を助ける旅に出たそうです。やがて八百歳となった娘は小浜に帰り、洞窟の中に入って入定しました。洞窟に入る前に椿を植え、「この椿が枯れたとき、私の今世での命は尽きて成仏する」と言い残したそうですが、その椿は今も枯れずに咲いているのだとか。

この八百比丘尼が入定した洞窟があるお寺は、今回大遠忌を迎えた面山禅師が住職を務めたこともあり、二百五十回大遠忌法要の会場となった永福庵ともゆかりのあるお寺です。

港の橋の歩道脇には人魚伝説を伝える像があります。不老不死とまではいかないまでも、長生きできるといいなあと願いながら像の前で奇妙な伝説に思いを馳せてきました。

福井県小浜市

大遠忌法要の前日は、ちょうど小浜市の放生祭だったようで、市内は祭の片付け中でした。放生会とは、慈悲心をもって捕えた魚鳥を逃がすこことで生命に感謝し、収穫を喜ぶお祭です。土日開催だとお寺の住職の身としては引退するまで見学は無理だろうなあと思いつつ、片付けの規模を見て、かなりにぎやかな祭典だったことがわかりました。

福井県小浜市放生祭 福井県小浜市放生祭

さて小浜市中心街から10分ほどの「若狭小浜箸のふるさと館」を訪ねました。

小浜市は日本の塗り箸の80%を生産しているのだとか。福井県はメガネの生産でも有名ですが、箸も8割とは驚きますね。しかも漆で塗った箸となれば精進料理には欠かせない重要な小物です。せっかくなのでしっかり勉強したいと思います。

箸のふるさと館WAKASA

〒917-0001 福井県小浜市福谷8-1-3
 TEL(0770)52-1733 

若狭塗箸自作体験

建物に入ると重さ1トンという超巨大な塗り箸が鎮座しています。ギネスに登録されているとか。

若狭塗箸自作体験

300種類以上の見事な塗り箸が壁面狭しとディスプレイされています。どれも特徴的で、見事な細工がなされています。眺めているだけで時間を忘れてしまいます。もちろんこれらの箸は購入することもできます。おお、この箸はすごいなあと思うとお値段も・・・しかし中には、この仕上がりでこの価格?値札間違いでは?と思えるほどのお買い得な品もあり、選ぶだけで楽しい時間が過ごせます。

若狭塗箸自作体験 若狭塗箸自作体験

これだけあれば、必ず自分好みの一品が見つかりますね。

若狭塗箸自作体験

そしてこの建物の奥には、手作り体験施設が併設されているのです。若狭塗り箸の製法や魅力が、実体験を通じてよくわかる素晴らしい施設です。旅の想い出や記念として最高だと思います。

若狭塗箸自作体験

どのようにして箸が作られているか、わかりやすく掲示してあります。

竹や桜、紫檀などの素材を乾燥させて箸の形に加工し、膠(にかわ)を塗って貝などの美しい素材を貼り付けます。それをきれいに磨き上げて、何色もの漆を順々に塗り重ねて漆の層を作ります。さらに金箔なども貼り重ねて磨き上げ、その後、内部の装飾層がちょうどうまく露出するように、外側の漆を削るのです。この削り具合や削る場所によって、中の層がうまくグラデーションとして露出することで美しい見栄えとなるのです。

そのため、箸自体も堅牢で長持ちする上に、芸術的な美しい箸が仕上がるのです。

若狭塗箸自作体験工房

若狭塗箸自作体験

文章で読めばあっという間ですが、それを実際作業するのはものすごく手間がかかります。一工程ずつの状態を並べた額をみると、どれほどの手間と時間がかかっているかが一目瞭然です。使い捨ての箸と、どう違うのか、伝統工芸について考えさせられます。

若狭塗箸自作体験工房 若狭塗箸自作体験

さあいよいよ実際に作業を体験します。まずはエプロンを借りて汚れがつかないようにします。

若狭塗箸自作体験

売店で、箸の原材を購入します。何色かの色があり、自分の好きなものを選ぶことができます。1組500円!で、この金額に体験料金も含まれています。ちょっと安すぎませんか!?観光地の体験工房としては破格だと思います。たぶんこの箸の仕上がり状態をそのまま買っても500円では安すぎると思いますがこれに体験料金まで含まれているとは・・・(※平成30年9月の時点での料金です)

色に迷って、せっかくなので赤と紺の二本作ることに。

若狭塗箸自作体験

この原材は、あらかじめ装飾層、漆層、仕上げ層まで塗り乾かしてある状態で、この体験作業では自分でこの箸をうまいこと削って、きれいな面を自分のセンスで露出させて仕上げるのです。

若狭塗箸自作体験

注意点をよく読みます。指導係の方がついて教えてくれますので不安はありません。しかし私は自分でやってみたいので、指導を遠慮しました。ちょうど他のお客さんも多かったので指導員さんも忙しく、ほっておいてくれました。

最も失敗しやすいのは、削りすぎて中の木の下地まで出てしまうこと。そうならないように、少しずつグラインダーにあててこまめに様子をチェックすれば大丈夫です。ずっと押し当てていると知らないうちに全部はがれてしまいます。

若狭塗箸自作体験

このように、グルグル回るグラインダーが何台も置いてあり、一人一つのグラインダーを借りて作業をします。よほどおかしなことをしない限りは危険性はないと思います。小学校低学年くらいのお子さんも、やってましたが上手でした。

若狭塗箸自作体験

こうして自分のセンスでグラインダーのヤスリ部分に箸を押し当てます。すると内部の装飾層が出てくるので、あとはどこをどれだけこするかは自由です。

若狭塗箸自作体験工房

上が作業途中の状態、下が初期状態です。上の箸は、半分程度まで下層の装飾部分が露出し始めていることがわかると思います。削り過ぎて木地が出ないことだけ注意が必要です。作業自体は、ざっとやれば一本5分かからないくらいです。

若狭塗箸自作体験

できました! 貝の装飾を上手く出すことができました。角の部分も少し削れそうな感じですが、せっかくの外表の赤や紺をある程度残したかったのでこのくらいで留めておきます。

若狭塗り箸の工程もよく理解できますし、この箸はとても良い想い出になりました。京都からもそう遠くないですし、海外の観光者にとっても、たいへん良いお土産になるのではないでしょうか。

若狭塗箸自作体験工房

若狭塗箸

そして最後に、壁面の製品から最も気に入った箸を買いました。

職人さん懇親の一品です。これだけたくさんの箸の中で、最も私の感覚にピンポイントでマッチした品、お値段的には清水の舞台から飛び降りるくらいの額でしたが、ここであきらめると必ず後で後悔します。自分の中で勝手に面山禅師二百五十回大遠忌記念の品として末長く宝物にしようと思い、多少無理して購入しました。

包丁、鍋とともに当寺三種の神器として末長く大切にしたいと思います。

若狭塗箸自作体験

若狭塗箸

若狭塗箸

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