精進料理とおかゆ9 おいしいおかゆの炊き方

 連日解説しているおかゆの炊き方ですが、今までは初心者でも失敗なく作ることができるように、炊飯器を利用する方法をご紹介していました。

それは決して手抜きをしようとか楽をしようということではなく、まずはとにかくおかゆの良さを体感してもらうことが先決だという考えに基づいています。当然、鍋でおかゆを炊く方がおいしいのは承知しておりますが、いきなり素人に鍋でおかゆを炊きましょう、と言ってもなかなか重い腰が上がらないのが現実です。

炊飯器で良いのなら自分にもできそうだな・・。と思ってくれる方もいると思うのです。

「精進料理というとなんだか敷居が高くて、ありがたいのはわかるけど自分には無理そうだ」と最初からあきらめてしまう方にもなんとかご縁を、と思ってのことですので、どうぞご理解下さい。 だいぶおかゆの良さも解ってきたと思いますので、今日はステップアップして鍋でおかゆを炊く際の手順と注意点を解説したいと思います。

○鍋について

おかゆを炊く際重要なのが鍋の選び方です。ほとんどのご家庭にあると思われるアルミ製の片手鍋は、おかゆにはあまりお薦めしません。それしかないならば無理せず炊飯器で炊いた方が良いと思います。

まずフタができること、できればフタをかぶせた際、鍋のフチがフタよりも上に出るタイプがお薦めです。おかゆが沸騰した際に吹きこぼれにくいからです。フタがフチの上に乗るタイプの鍋だと、吹きこぼれてガスレンジが汚れます。(下図参照、右のような断面の鍋が向いています)


精進料理とおかゆ9 おいしいおかゆの炊き方

そしてできれば鍋は土鍋が一番です。直接火にかけることができる小型の土鍋があれば、おかゆだけでなくご飯を炊くこともできます。土鍋は鍋自体が冷めにくいため、いったん沸騰させればごく弱火でおかゆをコトコト炊くことができ、また火を切った後の蒸らしも上手にできます。

ただし、寄せ鍋に使うような深さがあまりない平型の土鍋はあまりお薦めしません。できれば深さが10?くらいある土鍋が良いでしょう。下の写真に写っている、私が愛用している土鍋はホームセンターで980円で買ったもので、もともとご飯を炊くための土鍋です。ただ難点はIHヒーターのご家庭では土鍋は使いにくいことです。


精進料理とおかゆ9 おいしいおかゆの炊き方

○手順

1 お米をとぎ、土鍋に分量の水を用意し、30分ほどといだお米を

ひたします。とぐ際の注意点は、以前もご説明したとおり、お米を

壊してしまわないよう、力加減に注意します。

水にひたすことによって失敗なくおかゆを炊くことができます。

30分以上ひたしてもかまいませんので、朝炊くならば前晩にここ

までを済ませておきます。

分量は、一人分ならば45cc(一合のカップに1/4)、

水はお好みにもよりますがお米の8倍、つまり1合のカップに

2杯分です。この水加減を量って30分漬けておくようにします。

2 鍋の中に塩をほんの少々加えて点火します。塩を加えるのは

お米の味を引き立てるためです。

はじめは鍋のふたをしめて強火で炊きます。ガスの火力にも

よりますが、5分ほどで沸騰しますので、吹きこぼれる前に弱火

に落とします。一度沸騰するまでの時間を計っておけば、次回は

キッチンアラームをセットしておくと他のことをしていても

吹きこぼれる心配がありません。

弱火に落としたら、一度フタをとって中のお米を軽くかき混ぜます。

かき混ぜなくても良いのですが、この時点でお米の粒が固まって

いるのが普通なので、固まりをほぐす程度に割り箸か何かでかき

混ぜます。(その後は決してかきまぜてはいけません)

3 弱火の程度ですが、中のお米が土鍋の中で軽く踊るくらいの非常に

弱い火力にします。


精進料理とおかゆ9 おいしいおかゆの炊き方

上の写真の場合だと、右端の方に泡が見えますが、こんな感じで

ポコポコと泡が立つくらいの弱火にします。土鍋の場合だと、火加減を

下げても、保温性が良いためすぐには鍋の温度が下がらないので

注意して下さい。

火力があまり強すぎると、底の部分が焦げたり、

蒸発量が多くなってドロドロのおかゆになったりしますので注意して

ください。

なお、弱火にした時点で、鍋のフタをどうするかという問題がよく

議論されますが、わたしは無用な蒸発と、火力の損失を防ぐために

火力の調整が終わったらフタをします。

しかし初心者のうちは、フタをすると中がわからないため、できあ

がったかどうかがわかりにくく、また火加減が強すぎてふきこぼしたり

するので、慣れるまではフタを開けておくと良いでしょう。

4 30分ほど弱火で炊いたら、火を切ってさらに15分ほど蒸らします。

フタを外して炊いた場合でも、蒸らす時には必ずフタをします。

15分経ったら、それ以上時間をあけないですぐにうつわに盛って

食べて下さい。

○注意点

良いおかゆというのはお米の粒がきちんと残りつつ、ちょうど良い流動性があり、適度な粘度が出ているおかゆです。要するにダメなおかゆというのはその逆です。

まず、お米の粒がなくなってしまうおかゆは、第一に火加減を間違って火力が強すぎると、お米が鍋の中でグルグル撹拌されすぎてお米の形がなくなります。ちなみに中華がゆはわざとこのようにしてお米の原型がなくなるほど強火で煮る場合があります。まあ、それがお好みの方はそれでも良いのですが。

次に、意味もなくおかゆをかき混ぜた場合も同様にお米の粒がなくなり、粘度が高くなってドロドロのおじやのようなおかゆになります。せっかくのおかゆが台無しになります。おかゆを炊く際、手持ちぶさたにお玉でかきまぜたくなるものですが、おかゆはかき混ぜない、これが鉄則です。

以前永平寺で、禅師様のおかゆを準備する雲水が、少々早くおかゆを用意してしまったため、お出しするまでに時間が空いてしまい、仕方なくできあがったおかゆを鍋で再加熱し、ご丁寧におたまでグルグルとかき混ぜて暖めてから禅師様にお出ししたことがありました。まごころを込めてグルグルとかきまぜた結果、まるでご飯粒を鍋で煮て作った障子張りののりのように、おこめの粒のかけらもないとろみだけのおかゆができあがりました。さすがの禅師様もそのおかゆには驚かれ、おかゆの準備も大切な修行であると雲水に指導した・・・そんな笑えないエピソードがあります。

ちょうど良い火力で、鍋の中で自然にかき混ぜられてこそ、おかゆに適度な粘度が出るのであって、不自然にかき混ぜればかき混ぜるほどおいしくなくなります。

また、おかゆは冷めると水を吸ってしまい、とろみがなくなってベッチャリとした状態になります。こうなってしまったらお湯を少し足してかき混ぜるしかないのですが、それではおいしくありません。そのため、おかゆはできあがった瞬間を逃さずに食べる、「人を待たせてもおかゆを待たせるな」の格言を忘れてはいけません。

そのため、お客様におかゆを出すような場合は、できあがってからうつわによそり、それが運ばれてお客様が食べるまでの時間を計算して、水加減を調整する必要があります。食べるまでの時間がある程度長く必要な場合には、水加減を多めにするのです。それによってベッチャリしたおかゆになりずらくなります。

同じように、永平寺などの修行道場では、朝の法要が終わる時間を計算して、食事開始時間にちょうど良くなるようにおかゆを点火します。しかし200人分のおかゆを食事場所に運ぶためには、木の桶に移し、厨房から何10メートルも離れたところまで運んで、さらに食べる前のお唱えごとなどをして・・・。となるとおかゆを釜から移してから、最低でも30分は間が空いてしまいます。それを見越して水の量を調整するのです。そこまで心を配るのが典座なのです。

さて、以上の点を注意すれば、だいたいおいしいおかゆができあがると思います。あとは各人の工夫と努力で、さらに細かいコツを発見して頂ければと思います。炊飯器で炊いたのとはひと味違う土鍋のおかゆ、是非おためし下さい。

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