精進料理と調理酒3 調理酒の効果実証実験

前回解説した調理酒の効果を検証するため、簡単な実験を行ってみたいと思います。

同じ大きさの鍋を二つ並べて、両方とこに大根150gと昆布少々を入れ、

左の鍋 水200ml+酒100ml+塩2.5ml

右の鍋 水300ml+塩2.5ml

にします。

つまり、何が違うかといえば左は酒が入っていて右は入っていない

ということです。それ以外は全く同じです。

左は酒を入れた分だけ水を減らしており、合計量は300mlで同量です。

なお使用した酒は、調理酒や特別な酒ではなく、全国どこでも入手できる、清酒の松竹梅です。


精進料理と調理酒3 調理酒の効果実証実験

まず火にかける前の状態が上の画像です。クリックすると写真が大きくなります。

よーくみるとわかると思いますが、左の鍋は水がすんでいるのに対し、右の鍋は少し白く濁っているのがわかるでしょうか。

なぜこうなるかというと、塩の関係です。みなさん普段は気にしていないかもしれませんが、水に塩を加えると、塩が溶けて水が白く濁ります。ところが酒を加えた場合、白く濁りにくいのです。そのかわり底に塩が少し溶け残っています。おそらく酒を加えることによって水の量が減り、塩の溶け具合が変わっているのだと思います。つまり、300mlの水に対して塩2.5mlは常温でも溶けますが、200mlの水+100mlの酒の場合は2.5mlの塩は溶けきらないのです。加熱すると温度が上がってちゃんと溶けます。

塩が溶けるかどうかが味に直接関係するかどうかはよくわかりませんが、どちらにせよ水が白く濁っていないのが事実です。
次に二つの鍋を同じ火力で加熱します。火加減は最初から最後まで変えず弱火で25分間通しました。IHヒーターではないのでピッタリ同じ火力かどうかといわれると困りますが、火にかける前に目視で火加減が同じくなるよう何度も確認しました。


精進料理と調理酒3 調理酒の効果実証実験

上記の写真は火にかけてから15分くらいたった時のものです。みてわかるように、右の鍋はアク(白い泡)がたくさん出ています。

なお両方ともアクは一切取り除いていません。

これは何を意味するかというと、酒には食材のうまみを引き出す、つまり言い換えれば閉じこめる効果があるわけですが、右=水だけの方が大根に含まれる成分が多く溶け出たことになります。

アクというのは要するに食材に含まれる成分のうち、食べるときには無い方が良い成分をアクと呼んでいるわけですが、アクをたくさん取り除くということは、残った方が良い成分もアクとともに抜けてしまうわけです。

手間をかけて大根を煮る場合はまずぬかやとぎ汁で下ゆでし、アクだけを取り除いてから、酒や塩などを加えて味をつけるわけですが、味付けの時点ではもう大根の成分は溶け出してほしくないわけです。味がどんどん無くなってしまうわけですから。それを押さえるために酒の力を借りるわけです。

そもそも、ワラビとかごぼうのように、そのままでは食べることができないほど強いアクなら話は別ですが、大根のアクなんてそれほどきつくありません。そのわずかなアクを取り除く利点と、アクとともに抜けてしまう大根の味まで取り除かれてしまう欠点を比べた時、何を重視するべきかは明瞭です。アクがあまり出ない方が良いわけです。ということは酒を入れた方の鍋の方が良いのがわかるでしょう。

誤解の無いように補足しますが、アクを取り除く必要は全く無いということを言っているのではありません。実際の調理では、食材のアクの強さに応じて、まずは酒を入れずにある程度煮て不要なアクを取り除いてから、時間差で酒を入れてそれ以上味が抜けないように調整します。


精進料理と調理酒3 調理酒の効果実証実験

さて、次の写真は25分間煮た後に鍋に残った煮汁を計量カップに移したものです。色については、昆布の色が溶け出し、煮る前とは違って両方ともほとんど同じ色です。

左の鍋に残った煮汁は150ml弱、右の鍋の煮汁は170ml強で、20ml以上の差があります。

これは水よりも酒の方が蒸発性が高いことの証拠です。

煮物では、煮汁をなるべく少なくするのが基本です。なぜならば、食材に対して煮汁が多いと食材の味がどんどん溶け出して薄くなってしまうからです。煮汁が少なければ、溶け出す量が減り、しかも溶け出したとしても煮汁が少ないために煮汁自体の味が濃くなるわけです。

つまり酒を使った方が、早く煮汁が減るために味が濃くなるというわけです。

さて、実際に食べてみて煮上がった大根の味を比べてみます。

まず見た目ですが、酒を加えた左の大根の方が、表面にツヤが出て煮しまっている感じです。

食感は、左の方ははじめに歯があたる大根の表面部分はちょっとかたいような?締まった感じがしますが、内部は非常に柔らかく、歯によってちぎれながら口の中に煮汁が広がっていく感じです。右の方は表面も内部も均等な柔らかさで、全体的には左の方が食感がよく柔らかい印象があります。

かんじんの味ですが、左の方が格段にコクがあり、深みがあって広がりがある味です。昆布の上品な味が良く染みこんでいて、大根の持ち味が良く生かされています。右の方はよく言えばシンプルな味ですが、深みとコクがありません。あっさりしすぎていて、せっかくの昆布の味が生きていません。

これは簡単に言えば酒のうま味成分の違いです。

香りについては、両方とも昆布の良い香りがして、差はほとんどありません。

とうことで、以上の実験によって、先日列記した酒の効果一覧が実証されたかどうかを確認してみると以下のようになります。

1 素材の味を引き出す。→○

2 味にコクが出る。→◎

3 酒に含まれるうま味成分のおかげで味が良くなる。→◎

4 香りがよくなる。→この実験では差が出なかった

5 素材が柔らかくなる。→○

6 味が素材に染みこみやすくなる。→○

7 素材の臭みを消す。→この実験では不明

8 殺菌作用により、保存性が良くなる。→この実験では不明

いかがでしょうか。私自身、経験上で上記の効果は体験していたものの、今回の実験を行ってみて、同じ条件下でこれほど差がでるものかと驚いております。

もちろん、この実験は私自身の主観も入っているわけで、公的な実証能力があるわけではありませんし、研究と違って同じ条件で何度も繰り返し検証したわけではありません。おいしいかどうかの感じ方は人それぞれですので、酒を加えない大根の方が好みだという方ももちろんいるでしょう。

ですからぜひみなさん自身がご家庭で同じ実験を試してみて下さい。簡単な実験ですので。そしてその結果、やはり酒が入っている方がおいしいと思うならば酒を使えば良いのです。

みなさんの実験結果報告、コメント欄でお待ちしております。

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コメント

  1. 小林肇 より:

    毎回楽しく拝見させていただいております。
    私の実家も曹洞宗の檀家ですのでなおさら親近感が…(^^;
    男がてら料理が大好きで、勉強になっています。
    確かに酒を加えないで煮た場合アクがたくさん出ます。で、酒を加えて煮ると確かにあまり出ない。
     個人的な推察ですけど日本酒の酸と野菜のアルカリが結合して中和することによりアクが減るのではないかな、とも考えています。
    素材の臭みを消すのは日本酒のアルコールの力で生ぐさみの成分が溶け込み、加熱することによって蒸散するためと言われています。野菜ではよく分からないのですが、動物性の食品の場合は顕著に効果が現れました。
     話は変わりますが、ブログの更新はマイペースでどうぞ。
    お忙しい身分であればこそかえって根を詰めず、気が向いたときに更新すればよいと思います。
    著書のほうも毎日のように読み耽っております。
    師の更なるご活躍を願いつつ、メールとさせていただきます。
    (-∧-)合掌

  2. 富原 哲子 より:

    お忙しい中返信ありがとうございました。的はずれな質問をしてしまい後悔しましが、大根がちょうどあったのでお酒と昆布と塩で煮てみました。お酒・砂糖・しょうゆで味付けすることが多いのですが、あっさりとした大根の味を味わえました。
     毎日の食事はまんねりになりがちですが、ここを読んで家族が元気になる食事を作りたいと思いました。これからもじっくり読ませていただきます。