梅干しの効能と修行道場の朝食

ここのところ、天候の変動が激しいですね。
8月下旬に1週間ほど雨が続き、すっかり秋のような涼しさになりました。朝方などは毛布一枚では寒いくらいで、あわてて冬用の寝間着を引っ張り出したくらいです。


かと思ったらここ数日は再び夏の暑さが戻り、蝉が元気に鳴いています。
これほど気候が急転回すると、農作物にも体にも悪影響が生じます。聞いた話では、先月末の長雨で、近所の稲やレタスなどが被害を受けているとか。また、体にも無理がかかって、体調を崩しがちです。どうぞ皆様ご用心ください。

ということで、しばらく涼しい日が続き、もう秋の様相を呈していたため、梅干しの話題の続きは来年に持ち越そうか、と思っておりました。しかしまた暑くなってきましたので、あと2回ほど梅干しの話の続きをしたいと思います。

「梅干しは体によい」 日本人なら一度は聞いたことがあるでしょう。
では具体的にどんなふうに良いのか、少々まとめてみたいと思います。

○細菌の増殖を抑える防腐効果
「梅干しのおにぎりは夏でもいたまない」と言われています。夏の炎天下に持っていくお弁当には、梅干しのおにぎり、または白いご飯の真ん中に梅干しを置いた「日の丸弁当」が定番ですね。古くは、戦国時代の兵士たちも梅干しのおにぎりを腰にくくりつけて戦っていたようです。

これは、梅干しに含まれている「クエン酸」が、食中毒の原因となる細菌の増殖を抑え、腐敗を防ぐためといわれています。
理屈から言えば、おにぎりのご飯が梅干しと接している部分はわずかなので、それほどの防腐効果はないような気もするのですが、科学的な知識がまったくなかった昔から、先人たちが経験を通じてその効果を実感してきたからこそ、こうした口伝があるわけで、単なる理屈を超えた効果を認めることができると思います。
ちなみに、このクエン酸の殺菌効果により、口中の細菌による口臭を防ぐことができるともいわれます。

○疲労回復効果
そしてこのクエン酸は、疲れた体に良く効きます。運動したり働いたりすると、体の中に乳酸という物質が貯まり、疲れの原因になります。クエン酸は、その乳酸を分解して対外へ排出してくれるのです。一説には、乳酸を分解してエネルギーに変える効果もあるとも言われています。
夏バテには梅干し、といわれる背景には、こうした科学的根拠があるのです。

○動脈硬化予防
健康な人の動脈は、血を循環させる際に破れたり詰まったりしないように、ゴムのホースのように弾力があるのだそうです。ところが、生活習慣の乱れや高齢化による血管の老化によって、血管の内側にコレステロールや老廃物が付着して血管自体が硬くなってしまいます。これが動脈硬化で、脳卒中や心筋梗塞の原因です。
そして先ほど紹介した、疲れた際に発生する乳酸が、動脈硬化の一因といわれています。したがって、梅干しのクエン酸効果で乳酸が分解されることは、動脈硬化の予防に役立つというわけです。また、梅干しを継続して食べると血液を弱アルカリ性に保つことができ、いわゆるサラサラの血になるのだそうです。またある研究では、クエン酸自体に血圧や血糖値を下げるはたらきもあるともいわれています。

○胃に優しい梅干し
梅干しを見ると自然に唾液が出ますよね。実はこの唾液に含まれる酵素が、ガンの元になると言われる活性酵素という物質を減らしてくれるのだそうです。そして、唾液に含まれる成分や、酸っぱいものから胃を守ろうとして分泌される胃粘液によって胃腸での食べ物の消化吸収が良くなり、便秘を防ぎ、お肌によいといわれます。
また、お酒を飲む前に梅干しを食べておくと胃を保護してアルコールの吸収を保護し、肝臓の働きを高め、二日酔いを防ぐ効果もあるとか。さらには、二日酔いになった後梅干しを食べれば、酸性の堅田を弱アルカリ性にしてくれて二日酔いが早く治るともいわれています。
またある研究では、梅干しにはシリンガレシノールという成分が含まれており、これが胃ガンの原因となるピロリ菌を抑制するため、胃ガン予防にも効果があるといわれています。

さて、これほど体によいといわれる梅干し。
是非皆さんも、梅干しの良さをあらためて見直していただきたいと思います。
だからといって、一度にたくさん食べたのでは、かえって塩分過多になってしまい健康に悪影響が生じます。やはり一日1粒程度を、長期にわたって食べ続けることが健康の秘訣といえるでしょう。

ちなみに、修行道場では通常の朝食はおかゆとごま塩、たくあんです。
その時の典座和尚の方針などによっても違いますが、私が修行していた頃は、永平寺では毎月1日と15日の朝に、上記の献立にプラスして梅干しが付きました。
永平寺では、毎食200人分以上の修行僧の食事を調理するわけですから、毎日200粒づつ梅干しを配っていたら、ものすごくたくさんの梅干しを漬けなくてはいけません。したがって、物理的にも経費的にも連日は難しいのでそのように日を決めて食していたのだろうと思います。

その後、私が典座をつとめた永平寺東京別院では、当時の高僧の指示により、毎朝おかゆとともに梅干しを出しておりました。その高僧は料理に関して非常に理解が深い方でしたので、梅干しが健康によいことをご存じだったのだと思います。

考えてみれば、胃に優しいおかゆと、これほど健康に良い成分が多く含まれた梅干しの組み合わせは、古くから禅寺で厳しい修行を積む雲水たちの健康を保ってきた最高の献立ではないでしょうか。

真っ白い炊きたてほかほかのおかゆに、香ばしい煎りごまと梅干しをのせていただく修行道場の朝食。
今思えば、きわめて質素な献立ですが、それが逆に、最高のぜいたくだったようにも感じております。

梅干しとおかゆ

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