続・授戒会の台所

前回の続きです。
通常、こうした大法要では、各係ごとに責任者が立てられます。たとえば、法要進行係の親方、会計係の責任者、接待係の責任者など・・それにより、打ち合わせ会を行う際には各係の長だけが代表で集まって会議を行うことができるし、住職から急な伝達事項があったりしても、各係の責任者を通すことによってスムーズに全員に伝えることができるのです。

調理係の長を「典座(てんぞ)」と呼びます。
今回の授戒会で典座役、つまり料理係の親方をつとめたのは、永平寺修行中にも大変お世話になったS先輩です。永平寺の台所でも長くご一緒させていただき、またその後もいくつかの授戒会などの法要で一緒に台所係をつとめたことがある方です。

S先輩の統率のもと、今回は全部で5人の台所係が集結しました。はじめて会う方もいれば、以前一緒に料理をしたことがある方もいます。全国から集まって、挨拶もそこそこにすぐに作業を開始するわけですが、そこでポイントになるのはチームワークです。
よく知らない人といきなり組んで料理をしたらギクシャクしそうな感じがするでしょうが、そこは皆修行を終えた和尚さん同士です。典座を中心とした指揮系統をしっかり守り、短時間でバッチリまとまります。
とはいっても、封建制度のような絶対的な縦社会の力関係ではなく、みな自由に個性を発揮しつつ、「典座和尚さん、これはこう切ったほうが良いのでは?」「味はこれで良いですかね?」などと、必要な時には遠慮無く意見を言い合って料理を進めます。


↑ 大釜でけんちん汁を作るため豆腐を炒るS典座和尚


↑ できあがった170人分のけんちん汁。具材の味がしみておいしさ満点

戦場のような忙しさの中で、時には互いの意見が合わず気まずいムードになりそうな場面もあったりするのですが、メンバーの個性を活かしつつ、雰囲気作りまで気遣って、台所をまとめる典座役は本当に大変です。今回のS典座和尚さんは時にはユーモアをまじえながら、忙しいなかやりくりをしつつ寮員の疲れ具合に応じて適宜休憩もとってくださり、円満に料理が勧められました。

また中日ともなると、はじめて会った寮員でも、だんだん個性がわかってきます。この人はお米を研がせたら丁寧で早いな・・・となれば、お米はあなたお願いしますよ、と的確に役割分担を指示するのも典座の腕のうちです。

↑大根と玉コンニャク、ごぼうの生姜風味の味噌煮。昆布ダシで柔らかく煮た具材に数種類の味噌を加えてみそ味をしみこませ、仕上げにすりおろしたショウガを加えます。
ショウガの風味が食欲をそそり、しかも寒い日にはカラダが暖まって最高の料理です。

みそ味で野菜を煮る味つけは永平寺でも良く作るのですが、さらにショウガを加えるみそショウガ味は私ははじめての経験です。
なんでも、S典座和尚の地元に伝わる郷土料理だとか。
味を充分しみさせる秘伝も教わり、大変勉強になりました。
大根なんてふんわりトロトロでとてもおいしく、これはもう次のレシピ本に掲載決定です。
こうした全国の未知の料理を教えてもらえるのも授戒会の典座寮のありがたいところです。

↑ 朝はおかゆです。天日で干したカブやほうれん草の葉を刻んで混ぜた「菜がゆ」です。
おかゆの量や濃さの調整も経験がものを言います。

↑ 戒師さまをはじめとする高僧には、漆塗りのお膳に盛りつけておもてなしの意を表します。しかし「食平等(じきびょうどう)」と言い、うつわは違えども食事の中身は皆と同じもの。全員が同じ料理を食べることでありがたさが増すのです。

逆の見方をすれば、お膳に盛りつけてもおかしくない本式の料理を、戒弟も含めた全員が口にしていることになります。もちろん、さすがに160人分もうるしのお膳を用意することはできませんから戒弟のうつわは別ですが、料理は高僧のものと同じです。

↑ いよいよ最後の晩、戒師さまのお導きによりお釈迦様の弟子となるめでたき日、お赤飯の献立でお祝いです。なかなか授戒会中に赤飯で祝うのは時間的にも難しいのですが、やはりこうした心くばりは大切にしたいものです。

参加者の中には、今ひとつお戒名をいただくことに実感が湧かない方もおられるでしょうが、こうしてお赤飯を口にすれば、ああ今日はおめでたい祈念すべき日なんだな、とカラダで理解することができるのです。そこで解説役の和尚さん、あるいは料理長が皆の前で「本日はお赤飯ですね・・どうしてお赤飯なのかわかりますか?実はこの後行われる法要はとってもおめでたい意味を持っていまして・・・」なーんてお話しをすれば、より印象に残る授戒会となると思います。

↑ そして大法要が無事終わった後は、お世話になった台所をきれいに掃除整頓し、なるべくお寺に迷惑がかからないように配慮して帰ります。
「どうせリースの仮設プレハブなんだから、すぐに業者が撤去にくる。そこまできれいにしなくても良いのでは?」と思うかも知れませんが、それでもきちんと心をこめてきれいにして帰るのが作法なのです。
台所だけでなく、時間があるかぎり、周囲も掃除し、感謝の気持ちを表します。

どうでしょうか、一般の皆さんの目に触れる機会があまりない授戒会の台所のようす、雰囲気だけでも伝わりましたでしょうか。
授戒会は、通常のお寺ではあまり頻繁に行うことはできず、それこそ一住職の間に一度あるかないかの大法要です。もし皆様に縁があるお寺で授戒会が行われる際は、老若男女にかかわらず、ぜひご参加されることをお薦めします。

なお、曹洞宗の本山である永平寺や總持寺では毎年授戒会が行われております。(本山ともなると修行日程や規定もそれなりに厳しくはありますが)
また、永平寺東京別院では、授戒会よりも日数が短い「法脈会」が毎年行われております。
ご興味がある方は、直接主催されるお寺にお問い合わせ下さい。

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