精進料理のダシについて 10 ダシがら昆布を生かす

 今まで9回にわたり精進料理のダシの取り方について解説してきましたが、今回はその中でも最も重要な内容です。それは何かというと、ダシをとったあとの昆布や椎茸をどうするかというテーマです。「昆布でダシをとった方が料理がおいしくなるのはわかるけど、ダシがら昆布を捨てるのがもったいないから敬遠してしまう」という意見を良く聞きます。

たしかに、ダシを取り終えた昆布をそのままゴミ箱へ直行させるのはあまりにももったいない。

ダシを取り終えた昆布も無駄にせず利用するのが精進料理の心なのです。 精進料理では食材の命を非常に大切にします。食材の尊い命を使わせてもらうわけですから、ダシだけとって後はいらないというようなもったいない使い方はしません。食材に対して敬意を持てば、自然とその命を最大限に生かさなければという気持ちがわいてくるものです。

せっかく自分の命を分けてくれた食材に対して失礼がないように工夫して調理するのです。

私の精進料理の師は、食材を無駄にするような調理をしてしまったとき、よく「昆布が泣いてるわ」と言っていました。逆に食材を上手に生かしたときは「うん、昆布が喜んどる」と言っていました。食材の気持ちになってみることが大事です。

ところで、ダシの取り方が書いてある調理書は多いのですが、そのあと昆布をどうするのかまで書いてある本はなかなか少ないものです。書いてあったとしても、「だしがらの昆布は佃煮にして・・・。」が定番なのですが、正直言って昆布を佃煮にするのはけっこう難しい調理で、時間もかなりかかります。いきなりそれを薦められた初心者は、おそらくその一回目でイヤになって次からやらなくなってしまう場合が多いようです。

ということで、今回はまず初心者でも比較的簡単に作ることができる「昆布と椎茸の柔らか煮」をご紹介します。

使用するのはだしがらの昆布2枚、(乾燥状態で15gくらいのもの2枚、もどした状態だと30~40g×2枚)とだしがらの干し椎茸3枚です。昆布については、真昆布とか利尻昆布のような肉厚のものより、羅臼昆布や日高昆布のような薄いものが適しています。

まず昆布を包丁で細長く切ります。水気を拭いた昆布をまな板の上に平らに並べ、はじから包丁の先の方を使って順に切れ込みを入れていきます。幅はできれば3ミリ以内にするとおいしくできます。包丁を使うのが苦手な人も、何回も縦に切れ込みを入れる反復動作が包丁の練習になりますから挑戦してみて下さい。どうしてもうまくできない場合はキッチンはさみで切るのも手です。


精進料理のダシについて 10 ダシがら昆布を生かす

干し椎茸も同じように細く切ります。足がついている場合は、まず足を根本から外します。石突きは固いので(足の一番先の部分)取り除き、それ以外の足の部分を縦に細く切ります。

そして切った昆布と干し椎茸を鍋に移します。ちょうど良い大きさの鍋よりも一回り大きい鍋を使った方が、具と煮汁の厚みが薄くなるので熱がうまく回って上手にできます。

水350cc、酒50cc、みりん50cc、砂糖10mlを入れて煮ます。はじめは強火で煮て、沸騰したら弱火に落とします。

なお、水よりもダシを使った方がおいしくなります。しかし長い時間加熱するので、だしがらとはいえ昆布と椎茸から残ったダシが絞り出されるため、無理してまでダシを使う必要はありません。もし再利用料理としてではなく、もてなし料理として味を追求して作る場合には、昆布だし300cc、椎茸だし50ccを合わせて使うと良いでしょう。

かなりアクが浮いてくるので、こまめに取り除きます。火加減ははじの方がポコポコするくらいの弱火です。強いと、具が柔らかくなる前に煮汁が早く蒸発してしまうので注意して下さい。


精進料理のダシについて 10 ダシがら昆布を生かす

10分くらい煮たら、酒30ccとしょう油10~15mlを加えてさらに10分くらい煮ます。しょう油の量は、しょう油によって塩分がかなり違うので味を見ながら濃くなりすぎないように調整します。ちなみに途中で具を何度かかき混ぜます。

その後火を切って30分くらい煮汁につけて味を浸みさせます。そのとき落としフタがあれば載せておきます。

昆布の歯ごたえがある程度残るように柔らかく煮るのがポイントです。それにより、食べる人が昆布をよく噛むので、その味をより味わうことができるのです。

佃煮ほど味を濃くせず、昆布と椎茸の風味を残すような味付けが良いのですが、もし一度では食べきれない量を作る場合には、砂糖としょう油を増やして濃いめに味付けしておけば、冷蔵庫である程度の期間保存でき、忙しい時の一品として重宝します。

なお、油揚があれば細く切って加えるとコクが出て味がマイルドになります。また、お好みにより実山椒を少々煮込むか、または盛りつけた後に粉山椒をふってもおいしくなります。

もちろん単品でもおいしいのですが、下の完成写真のように煮物などの添え物にしても良いでしょう。今までゴミ箱に直行していただしがら昆布&椎茸、ぜひその命を無駄にせず「昆布が喜んどる」調理をしてみてください。


精進料理のダシについて 10 ダシがら昆布を生かす

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