包丁選びとお手入れの基本12 菜切り包丁の良さ

包丁を3本揃えるなら「菜切り包丁」、「ペティナイフ」、「牛刀」をお薦めしましたが、それならペティナイフと牛刀だけで良いのでは?菜切り包丁は使わなくなってしまうのでは?
という疑問を持つ方もおられるでしょう。

補足すれば、確かに料理経験が豊富で、包丁の研ぎ方もわかっている人が新しく包丁を買い換えるなら、牛刀+ペティナイフでも良いと思います。

しかし今回お薦めしているのは、「精進料理初心者」「包丁の研ぎ方をこれから覚える人」向けだということを忘れないで下さい。初心者だからこそ、できれば昔ながらのハガネ製の「菜切り包丁」をお薦めしたいのです。

予算の都合で1本だけしか包丁を買えない場合は、「三徳包丁」でも良いのですが、じっくり時間をかけて何本か買いそろえるつもりならやはりまず1本目は「菜切り包丁」です。

というのも、牛刀は写真を見てわかるとおり刃先に緩やかなカーブがあります。はじめて砥石を使う人にとって、曲線的に研ぐのは難しいからなのです。初めのうちはこのカーブに沿って研ぐことができず、せっかくの曲線を崩してしまうことになりがちです。

その点菜切り包丁なら、刃先がある程度まっすぐで、刃渡りも15センチほどなので砥石で研ぐ際に何度も切り返さずに研ぐことができ、牛刀にくらべてはるかに研ぎやすいのです。

いままでさんざん量販店やホームセンターの包丁はお薦めしない、と言ってきましたが、当たり前のことですが量販店と一口にいっても品揃えはさまざまです。お薦めできないのは「量販店の1000~3000円のステンレス・セラミック製包丁」です。理由は研げないから。はじめは切れ味が良くても数ヶ月で必ず切れなくなります。
ところで、量販店の中でも、はがねの包丁を売っている場合があります。
これなら買ってもOKです。


これは売価1580円のハガネの菜切り包丁です。
先日の菜切り包丁の解説の中で、刃の側面半分がさびにくい「黒打ち」仕上げの包丁を紹介しましたが、これは黒打ちではなく、黒打ちに似せた感じで上半分に樹脂のようなコーティングがされており、その部分が錆びにくくなっているものです。その他にも握り部分の柄(黒いところ)をプラスチック製にするなどして、その分安価に設定してあるようです。


コーティング部分は少しデコボコしていて、槌目模様のイメージを出しているようです。
これだけ安くても、ハガネの包丁の切れ味はさすがです。

もし、このお店で売っている包丁の中でどれか1本だけもらえるとしたら、3580円のステンレス包丁ではなく、私は迷うことなくこの1580円のハガネの菜切り包丁を選びますね。
もちろん砥石で研ぐことができるので切れ味が落ちても自分で研げばすぐに良い切れ味にもどります。


ホームセンターや量販店には、あまりこうしたハガネの菜切り包丁が売っていないかもしれません。そんな場合は、ちょっと大きな町ならどこにもある荒物屋さんで売っている、パッケージもなにもない昔ながらのハガネの菜切り包丁がお薦めです。
この品は地元沼田市内の鍛冶屋さんで売っている最も安い2205円の菜切り包丁。
これも黒打ちではなく、コーティングで錆びにくくしてあります。ホームセンターのものと何が違うかというと、値段の分だけハガネの質が高く、また研ぎが丁寧で切れ味が少し良くなっています。

初心者向けに菜切り包丁をお薦めする理由の一つは、値段が安いことです。
ステンレスの2000円の包丁は、数ヶ月使って切れ味が落ちれば使い捨て、ハガネの菜切り包丁はちょっと錆びやすいかわりに、切れ味がとてもよく、切れなくなっても砥石で研ぐことができます。

誤解の無いように補足すると、この1580円の菜切り包丁は、同じ店で吊されている同価格帯のステンレス包丁に比べれば格段に価値が高いことは間違いありませんが、だからといってこの包丁なら何の問題もないというわけではありません。
たとえば有名店で売られている、職人が手作りでつくった1~2万円の菜切り包丁に比べればやはりいろいろな点が劣ります。
ですから一番良いのはしっかりしたつくりの、高価な菜切り包丁なのですが、何度も言いますがいきなりそれを買っても使いこなせないので、まず数千円のハガネの菜切り包丁で研ぎ方の練習をして自分で包丁を研げるようになりましょう、ということなのです。

まあどちらを選ぶかは自分次第です。
以前、同様の話を料理教室でしたところ、若い女性の参加者から、「でも菜切り包丁ってどうも見た目が古臭くて、私のセンスに合わないのよね」と言ってました。
確かに「昔風」「和風」のイメージはあるかもしれません。しかし人前で包丁を見せるカウンター割烹の板前さんならともかく、自宅で調理する際に見栄えがそれほど大事でしょうか。そもそも2000円のステンレス洋包丁がセンス良いデザインだとは思いませんけどね・・見た目優先で切れ味が悪いのを我慢するというのはおかしな話です。

どうしてもデザインが気に入らない人のために言います。
この2000円前後のハガネの菜切り包丁は、まず料理の初心者がはじめて包丁研ぎを練習する教材としてとてもお薦めですよ、という話なのです。
もっと高いお金を出せば、現代的で洗練されたデザインの包丁もあるでしょう。しかし私ははじめから高級な包丁を買うよりも、まず扱いやすく値段も手頃な包丁で「砥石で研ぐ」ことを覚えることが重要だと思うのです。
いずれ解説しますが、「砥石で研ぐ」ことは覚えてしまえば意外と簡単ですが、人によっては覚えるまでに時間がかかる場合もあります。いきなり高価な包丁で変な研ぎ方をして自分では修正できないほどおかしくしてしまうよりも、まずはデザインが気に入らなくても低価格な包丁で練習することをお薦めしたいのです。
研ぐ技術を覚えるための教材と割り切れば、デザインなど二の次で良いことがわかりますよね。

どうでしょう、1580円の包丁なら万一研ぎを大失敗しても勉強代として惜しくありません。
保管しておいて、いずれ研ぎが上手になったら自分で修正することもできますし。
そして研ぎの技術がある程度身についたら、好きなデザインの包丁(ハガネの!)を買えば良いのです。

ここまで私が説明しても疑い深い方は、このハガネの菜切り包丁と、ステンレスの2000円の包丁を両方買って研いでみてください。
切れ味と、研ぎやすさがどれだけ違うかがよくわかると思います。

近くの量販店で売っていれば1580円前後ですが、近くに売っていなければアマゾンだと送料分高くなってしまいますがすぐに入手できます。
ちなみに補足しますと、この菜切り包丁を特別にお薦めするわけではありません。たまたまうちの近くの量販店で売っている包丁の中ではこの菜切り包丁が唯一お薦めできる、というだけの話です。
このメーカーのこの製品でなくても、2~5000円のハガネ製の菜切り包丁ならどれでも入門用として問題ありません。
(しつこいようですが、菜切り包丁のタイプでもステンレスなどの素材は研ぎにくいのでやめた方が良いですよ)

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