精進料理とおかゆ7 おかゆに十の利点あり

 ここのところ続いていますおかゆ特集ですが、「そろそろおかゆにも飽きたので他の話題をお願いできませんか」という御意見メールをいただきました。確かにリアルタイムで御覧になっている方にはおかゆばかり続いてつまらないかもしれませんが、後からまとめて読む方にとってはある程度まとまっていた方が便利なのも事実です。

市販の書籍などでは読者を飽きさせないための配慮が重要で、さまざまな制限がありますが、非営利個人ブログの良いところは、利益を追求するメディアでは触れることができない深いところまで、時間や頁数を気にせずとことん追求できる点にあるのです。 とりあえず、来たる1月15日に「小豆粥」(あずきがゆ)を食べる風習がありますが、その日までおかゆ特集を続けたいと考えています。もうしばらくおかゆ特集におつきあい下さい。

さて、曹洞宗の修行道場では毎朝おかゆを主食にしているということは第一回でご紹介しました。

僧たちは厳格に定められた食事作法に従い、応量器(おうりょうき)という漆塗りのうつわを用いておかゆをいただきます。食事をいただくことも大切な修行であるという教えにしたがい、感謝の念を忘れず、ありがたく食事をちょうだいします。もちろん雑談やよそ見などせず、目の前の食事に専念します。

はじめに僧たちは畳の上で坐禅を組みます。ふだんは壁の方を向いて坐禅をするのですが、食事の際は壁と反対側である通路側を向きます。そして食事のはじまりを告げる合図として、天井から吊り下げられた大きな魚の形をした木の彫り物(魚鼓・ぎょく)や雲の形をした鉄の板(雲版・うんぱん)などがうち鳴らされます。

僧たちは応量器を包むふくさをほぐし、重ねていた応量器を目の前で並べます。のちに配膳係の雲水(浄人・じょうにん)が木の桶に入ったおかゆや漬け物などを捧げて僧たちの前に至り、各々よそって回るのです。

これらの作法は道元禅師の著である『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』に詳述されており、細かい部分は時代の流れや指導者の流儀により多少変わっていますが、現在でもおおむねその記述通りに食事が行われているのです。その作法は、道元禅師が考え出した完全オリジナルの作法ではありません。道元禅師が修行のために中国に渡った際、中国にて行われていた(あるいはかつて中国で行われていた)作法を基本にしています。したがって、現在永平寺などの道場で行われている食事作法は、中国禅宗のふるい規範書などを原典としているのです。

なお、食事中にはところどころで進行役が鳴らす戒尺を合図にして、種々の「お唱えごと」が読み上げられます。例えば、有名な「五観の偈」なども食事前に唱えるお唱えごとの一つです。

その中に、「粥時咒願」(しゅくじじゅがん・しゅくじしゅがん)というお唱えごとがあります。

これは僧たちが全員で唱和するのではなく、制中においては昨日ご説明した「首座(しゅそ)」という雲水たちのリーダーが一人で独唱します。

「粥有十利 饒益行人 果報無辺 究竟常楽」

(しゅうゆうじり にょいあんじん こほうぶへん きゅうきんじょうら)

意訳 おかゆには十の良い点があり、いただく者に利益をもたらします。その無限の果報により仏道修行が達成できますように祈ります

この冒頭の句にあるように、おかゆには十の良い点(功徳・くどく)があるとされています。

おかゆの十の利点(粥有十利)とは、以下の通りです。

「色、力、寿、楽、詞清弁、宿食除、風除、飢消、渇消、大小便調適」

(しき、りき、じゅ、らく、ししょうべん、しゅくじきじょ、ふうじょ、きしょう、かっしょう、だいしょうべんちょうてき)

意訳 「肌の色つやが良くなる、気力・体力が増す、体にやさしく命を長らえる、言葉が清くさわやかになる、消化が良い、風邪を防ぐ、飢えをいやす、のどの渇きを消す、便通を良くする」

この句は中国で1100年ごろ編集された、現存最古の禅の規範書である『禅苑清規』(ぜんねんしんぎ)に記されていて、さらにその原典をたどると、例えば今からおよそ1600年くらい前に成立した「摩訶僧祗律」(まかそうぎりつ)などのいくつかの経典にすでに記されています。

すなわち、仏教ではおよそ2000年も前からおかゆの効果に着目し、尊んできたことがおわかりでしょう。良い修行をするにはまず健康が第一です。厳しい修行に耐えるために、おかゆの力が欠かせなかったのです。おかゆと仏教とは、非常に長い時間をかけてともに歩んできたといっても過言ではありません。

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