お釈迦さまは今から2500年ほど前、12月1日から1週間坐禅を続け、12月8日の明け方についにお覚りを得て仏教を開かれました。
この故事に因んで、曹洞宗では12月1日から7日の深夜まで坐禅三昧の修行に入ります。
他のことを取りやめて、坐禅だけに専念する期間のことを、心を集めるという意味から「摂心(攝心)せっしん」と呼びます。
12月を昔の呼び方で「臘月(ろうげつ)」といいますが、そこからこの12月1日から7日の深夜(八日の早朝)までの摂心を「臘八摂心(ろうはつせっしん)」と名付けています。これは戦国時代から続けられている曹洞宗の歴史ある大きな修行で、朝起きて夜眠るまで、ほとんどの時間を坐禅だけに専念します。
初期の日本仏教は、お釈迦さまの死後だいぶ経ってから編纂された経典の解釈や、国家鎮護を願う祈祷に重点がおかれ、、仏教の開祖であるお釈迦様の人間としての生き方や、生の言葉を重んじ参究する比率が低かった時代がありました。
道元禅師様はある日の説法で、「日本国先代、かつて仏生会、仏涅槃会を伝う。しかれども、いまだかつて仏成道会を伝え行わず。永平、はじめて伝えてすでに二十年。自今以後、尽未来際、伝えて行うべし」とおっしゃいました。
つまり「日本ではこれまで、お釈迦様の御誕生を祝う降誕会(ごうたんえ・はなまつり)や、お亡くなりになった日を悼む涅槃会(ねはんえ)は伝わり、行われているけれども、これまではお釈迦様のおさとりになった日を讃える成道会(じょうどうえ)は伝わっておらず、行われていなかった。永平寺の住職であるわたくし道元は、二十年前に成道会をはじめて日本に伝えたのである。これよりは、未来にわたってずっと途絶えること無く伝え、行うようにしなさい」という意味です。
以来、曹洞宗ではお釈迦様の誕生日である降誕会、お覚りを得た成道会、お亡くなりになった涅槃会の三つを「三仏忌(さんぶっき)」と呼んでお釈迦様の御遺志を大切にして丁寧に行じています。
成道会の法要は、臘八摂心とは別の行持として12月8日の午前中に行われます。しかし道元禅師は、弟子達が未来にわたって、ただ単にその法要だけを行うことを願ったのではありません。お釈迦様の言行を偲び、どのように悟りを得たのかを知れば、当然ながらその行いを追いかけ、真似し、たどってみようという想いが湧いてくるのです。
それを形に表したのが臘八摂心の修行です。お釈迦様と同じように12月1日から8日まで坐禅を行って、行跡を偲び、摂心と成道会の法要までの一連の修行によって、お釈迦様の成道を供養するのです。
(続く)