明日はいよいよ13日、七月盆の入りの日となります。怠りなく準備し、感謝の気持ちをこめてご先祖さまの丁寧に魂をお迎えしましょう。
今回のお供え精進料理膳は、初心者対象に、なるべくかんたんに調えることができる基本の料理を紹介していますが、その中でも今日の料理は少々手間と時間がかかります。
お供え膳の中で中心となる献立を盛るためのうつわ、西洋料理で言えばメインディッシュにあたるのが「平椀」です。例外もありますが、一般的には平椀にもっとも手の込んだ料理を配置します。精進料理の基本献立でいえば、煮物がそれにあたります。初心者は、「平椀には煮物を盛る」と覚えてください。あえて基本を外す場合もありますが、はじめのうちは平椀には煮物、で間違いありません。
今は便利なガスコンロやIHクッキングヒーターがありますが、薪でかまどに火を用意して作っていた時代には、火加減や、鍋を一度にいくつも使えないなど煮物を作るのはたいへんな労力が必要でした。そのため、それにかける手間や時間イコール「もてなし」だったのです。
最も手間がかかるのは、たとえばがんもどき、ごぼう、にんじん、大根など、それぞれの食材を別の鍋で個別に味付けし、最後に平椀に盛り合わせる煮物料理です。今回は、初心者向けのため、少し格式を下げて一つの鍋で一度に加熱・調味する煮物を紹介します。
ご存じの通り、精進料理ではお肉や魚は使いません。今回の煮物は、お肉を使わない肉じゃが!です。お肉無しなら肉じゃがといわないだろう・・その通りです。正確に言えば、「じゃがいもと切干大根のうま煮」となりますが、それだとタイトルからどんな料理か今ひとつわかりませんよね。そこで一般の方には、「精進肉じゃが風」と紹介することにしています。その方がずっと料理の完成がイメージしやすいでしょう。
まずは基本となるダシですが、干し椎茸を使います。干し椎茸4枚を容器に入れ、水2カップ(400ml)を注ぎ、三時間以上ひたします。あらかじめひたしておくと、じっくりダシが染み出てきて理想的なのですが、時間が無ければお湯で戻せば30分ほどで抽出されます。
上が浸しはじめの水の色、下が3時間後です。椎茸の成分がしっかり出て、良いダシがとれているのがわかるでしょう。(加熱する必要はありません)
次にじゃがいも300gの皮をむきます。水で洗い、ドロや汚れを落とします。
ピーラーで皮をむきます。
じゃがいもの芽の部分(くぼんだところについている突起のようなもの)には、人体に有害なソラニンという物質が多く含まれており、食中毒の原因となります。加熱しても残ります。
昨年、ある小学校で自家栽培したじゃがいもを食べた生徒25人が食中毒で搬送されるという大きな事故がありました。特に緑色の未成熟なジャガイモには要注意です。ジャガイモの芽に気を付けるという基本知識、知らない方は是非この際覚えて下さい。
同様に、あまりご存じない方も多いようですが、ピーラーの側面部分には、じゃがいもの芽をえぐりとるのに便利な突起がついています。このU字型の突起で芽をすくうようにして取り除くと、無駄なくきれいに処理できます。(ついていないピーラーもあります)慣れた人は、包丁の手前カドで切り取っても良いでしょう。
むいたじゃがいもは、そのまま空気に触れさせておくと変色するため、水に浸けておきます。
大きい場合はここで一口サイズになるように乱切りにしておきます。面取りの必要はありません。
次に切干大根20gをぬるま湯に浸し、ある程度水分を吸って柔らかくなってきたら手でもんでなじませます。
もむと泡がたくさん出てきます。これはアクなので、ある程度もんだあとにザルにあげます。
アクでもあり、同時に切干大根のうまみでもあるため、水ですすいだりはせず、ザルで戻し汁を切るだけでかまいません。
もう一度ぬるま湯を注いで、ふたたびもみます。二回目となると、泡も濁りも減少します。この状態で使用します。両手で切干大根をつまんで水気をしぼり切ります。
絞った切干大根を細長く調えてまな板の上に置きます。
3~5センチくらいになるようにザックリ切っていきます。これはあまり長いものがあると食べにくいからですが、はじめから短くカットされて干してある製品の場合や、長いのが好きな方は切る必要はありません。
次にダシにつかった干椎茸を切ります。大きければ十字に切っていちょう切りに、小さければ半分に切って半月切りにします。
人参70gを乱切りにします。市販の人参の場合、皮が柔らかいのでむく必要はないと思いますが、皮が硬いものだったらむいてください。
厚揚150gを一口大に切ります。油抜きは不要です。
フタができる鍋に油大さじ1を敷いて熱し、油が温まったらじゃがいも、人参、しいたけを炒めます。火加減は中火です。1分ほど炒めて、油が全体に行き渡り、じゃがいもの周りが透明になってきたら椎茸のダシをすべて加えます。ダシを加えるまでは、木へらを早く動かさないと焦げますのでご注意下さい。
椎茸ダシの後で、厚揚げを加えます。はじめから入れると炒めるときに壊れてしまうため、後から入れるのです。
強火にし、酒大さじ3、みりん大さじ2、砂糖小さじ2~大さじ1、しょうゆ大さじ2を加えて中火に落とし、5~7分ほど煮ます。
切干大根を加えます。始めに入れると、切干大根が柔らかくなりすぎてしまうため、少し時間をおいて入れるのです。
フタをして、ごく弱火に落とし、15分ほど煮ます。
吹きこぼれる心配はあまりありませんが、ほんの少しフタをずらして熱が抜けるようにし、また隙間から中がのぞけるようにしておくと良いでしょう。火加減が強いと煮崩れますのでご注意下さい。弱すぎてこれ以上下げるとガスが消えてしまうくらいの弱火です。
ただしコンロの性能はさまざまですしじゃがいもの大きさや硬さも異なるため、心配な方は隙間を広めに取りよく見ながら加熱して下さい。ただし、あまりフタを何度もあけるとうまく火が通りません。
鍋は、できれば重くて厚い鍋の方が熱効率がよく、ふっくらと仕上がります。
その間にいんげん30gのへたを取り除き、食べやすい長さに切って、普通に食べることができる硬さまで塩ゆでしておきます。
火を止めたらフタをあけずに5~10分ほど蒸らして余熱を通し、じゃがいもに火が通っていれば完成です。じゃがいもを強く触ると煮崩れますので、軽くいんげんを混ぜて彩りをよくします。
失敗するとしたら火加減が強すぎて、じゃがいもが崩れてしまうことですね。フタがあると、フタ無しとは格段に火の通りが良くなりますので、ごく弱火で火を通します。
昔ながらの肉じゃが風、手間はかかりますがお盆のお供えに最高ですよ。