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寶満寺さま精進料理教室レポート

浄土真宗寶満寺精進料理教室

↑今回調理した精進料理

さて、そもそも今回の精進料理教室、依頼主である寶満寺さまは浄土真宗で、私は曹洞宗です。寶満寺様婦人会の役員会議では、せっかく精進料理を学ぶなら、同じ浄土真宗の講師を招いた方が良いのでは?という反対意見も出たそうです。それはとっても素直な要望だと思います。

しかし坊守さま(坊守・主に浄土真宗で住職の配偶者、ひらたくいえば今回はお寺の若奥様)が「では皆さんにお尋ねしますが、”浄土真宗の精進料理”って何でしょうか?そこをしっかり学ぶためにも、今回は曹洞宗の精進料理を体験してみましょうよ」と提案なさり、今回の精進料理教室が実現したのだそうです。

今まで浄土真宗さんからは山口県、鹿児島の2回、大きな企画を引き受けていますし、宗派としての機関誌「みどうさん」に私の記事が掲載された実績があります。過去の2回は大きなエリアを範囲とした会としての依頼でしたが、今回のように一寺院での依頼は初めてです。

そもそも今の時代、仏教各宗派で完全に別個に活動していくには限界があると思います。教えや立場が違っても、宗教者どうし互いを認め合い、良さを学び合ってともに信仰を深めていく姿勢が大切だと思うのです。ですから他宗派からの依頼も大歓迎で、意義深いことだと思っています。

そうした背景を踏まえて、私は今回、冒頭で皆さんにこう言いました。

「皆さんが海外旅行に行って、おいしい現地の料理を何日間も食べていると、自然と食べ慣れた和食が恋しくなるでしょう?帰国したらお茶漬けと漬物が食べたいー、って感じるものです。外国の食文化に浸ることで、馴染み深い和食の良さを再確認できるのと同様に、今日は曹洞宗の精進料理に関する教えを実体験する中で、浄土真宗さんの教えを別方向から眺める良い機会にして欲しいと思います」と。

まあ批判を覚悟で申し上げますと、曹洞宗の精進料理は仏教各宗派の中で歴史的・教義・内容等々ダントツに抜きんでていると私は思っています。宗祖が食事に関する大著をいくつも残し、その教えに従い800年近くに渡り僧侶自身が台所で調理を続けてきた伝統はまさに誇るべき宝なのです。

自画自賛で恐縮ですが、曹洞宗の中でも出張精進料理教室のエキスパートである私を講師に選んだ坊守さま、さすがお目が高い(笑)

特に今回は、長い間の悲願だったという、行事などの際に婦人会のみなさんが料理を準備する際に共用するお寺の台所の大改修が無事終わり、新しい便利な台所を使ってはじめて企画した精進料理教室だそうです。今後はもちろん浄土真宗さまの講師を招いての教室も企画されるでしょうが、記念すべき初回の企画ですから、失敗は許されません。私もいつも以上に張り切って臨みました。

寶満寺さまは千葉県の銚子市市街から少しだけ奥まったところに入ったところにありました。港や中心市街から車で5分ほどしか走っていないのに緑豊かで静かな、お寺にピッタリの環境が突然あらわれます。聞けば戦争で空襲にあってお寺が被害を受けてしまい、この地に移転したのだとか。お寺の歴史は古いのですが建物は新しいため、外観はとてもモダンでセンス良い近代的な建物でした。内部もよく考えられていて、信仰の場として充分な機能を持ち合わせた素晴らしいお寺でした。うーん、正直うらやましい設備ばかり…

真新しい台所に集合し、開式挨拶を聞く婦人会の皆さん。今回は前日に到着できたため、あらかじめ調理台の上に食材や道具などを並べて置く時間が取れたので大人数の参加者にもかかわらず比較的スムーズでした。

いつもお寺で大きな法要があると、集まった信徒さん(いわゆるお檀家さん)に手作りの精進料理をおもてなしする、昔からの伝統を今も守っておられる寶満寺さまの婦人会。さすがに皆さん手慣れていて、私のアドバイスもそこそこに、どんどん料理が進んでいきます。

都市部ではそうしたおもてなしの習慣もほとんど途絶え、仕出し弁当に切り替わっています。まあ高齢化・簡素化・費用・利便性などやむを得ないのはわかりますが、やはりお寺の伝統法要には手づくりの精進料理がよく合います。ぜひ守っていきたい伝統の一つだと思いますね。

料理は皆が協力しないとうまく仕上がりません。ふだんから婦人会の皆さんが結束し、仲良く活動している証拠に、終始なごやかで楽しく料理が進んでいきます。それぞれの家で味付けや好みは当然違うでしょうが、お互いに味を確認し合い、ちょうどよい加減に落ち着かせていきます。近年失われつつある集団内の協調性を維持する心がけがこういう日常の中で養われるのです。まさに互いを尊重する姿勢の実践だと思います。

まださくらんぼが出始めの時期でお高いので、無理に用意しなくても良いですよと伝えてありましたが、せっかくなので、と初物のさくらんぼをたくさん用意して下さいました。皆で大切に種を取ります。他にも北海道の住職さまから届いた貴重なホワイトアスパラガスなどありがたい食材をたくさん使うことができました。尊いご縁に感謝して無駄なく調理します。

お寺の調理場でよくあるのが、炊飯器によるブレーカー作動です。お寺の建物は古いためブレーカーのアンペア数が低い場合が多く、大人数の炊飯は思ったよりも電力を消費するため、経験が少ない典座和尚が料理教室を開くと、途中でブレーカーが落ちてご飯が炊けなかった!という初歩的なトラブルが多いのです。

私はそうならないよう、当然ながら事前にチェックし、必要なら炊飯時間をずらしたり母屋の別回路を使って電力を分散させますが、寶満寺さまの新しい厨房はその点すでに対策済で、3升炊ける特大の炊飯器、しかも200ボルト電源の別回路仕様です!つまり通常の100ボルトコンセントとはまったく別の独立した専用コンセントで、炊飯による使用電力ピーク時にも電圧が下がること無くおいしく炊けるようになっていました。通常は電気式炊飯器は大きくても2升までなので、3升というのはとても珍しいです。

電気炊飯器はガスに比べるとピーク時の火力が劣るのですが、独立200V電源で炊いたお米はふっくらと立った理想的な状態。おいしく炊いたご飯をこれまた特製の大型飯器を使って皆で気持ちよく混ぜ混ぜしました。

そして一番盛り上がる胡麻豆腐実習。かわるがわるコネコネして胡麻豆腐作りの大変さを体験します。修行道場では毎日のことなので見慣れていますが、一般の家庭ではこれだけの大鍋で胡麻豆腐をこねることはまず一生ないでしょう。みなさん珍しそうに大銅鍋での調理を体験していました。

きれいに仕上がった胡麻豆腐を冷やすシンク、坊守さまがあらかじめきれいに磨き上げておいてくださりました。なんとありがたい・・おかげさまでキッチリ仕上がり、多めに作った分は参加者のお土産として持ち帰り、ご家族にも味見をしてもらうことができました。

仏さまにお供えする漆膳。坊守さまが、古い伝統文化を守るためにと揃えた歴史ある本格的な漆器です。朱塗りも良いですが黒漆器もまた精進料理によく合って美しいですね。

調理が終わった後はまず仏膳を調え、ご本堂でお供えの儀式を行いました。

事前に、曹洞宗式・あるいは浄土真宗式、どちらの法式でお供えの儀式を行うか、御希望を伺ったところ、他宗派の法式を経験するのも参加者の良い勉強になるからと、あえて今回は曹洞宗式で行いたいとのこと。

浄土真宗では般若心経を読みませんし、木魚も使いません。せっかくなので、群馬から木魚を持参し、略式ではなくきちんとした本尊上供法要を行い、婦人会長さまにお供えしていただき、参加者一同が読経中に焼香し、回向文では参加者の健康と幸せを御本尊様に祈願致しました。

後日、参加者から、「そういえばどうして浄土真宗では般若心経を読まないのかしら」「木魚はどうして打たないの」などの声が上がったそうです。ただ単に講師からその理由を説明されても、たぶんあまり身にならず忘れてしまうことが多いと思います。しかしこうした実体験の気づきから出た、どうしてなのか?という疑問に対する答えならば、深く自分の財産となることでしょう。

それにしても素晴らしい本堂と、婦人会のみなさまの敬虔なる信仰心に感銘を受けました。

他宗派の御本尊様の前で曹洞宗のお経をあげるのは初めてではありませんが、今回は特に特別の計らいの中で曹洞宗式の法要を行ったためちょっと緊張しました。

続いておまちかね、研修ホールにて試食です。通常は一汁三菜形式の6品を調理することが多いのですが今回は皆さん手慣れているということで一汁五菜の8品を作りました。

食前の作法も、浄土真宗式ではなく曹洞宗のお作法で五観の偈を唱えて行じました。肝心のお味は・・・皆さん満足なさったようで何よりです。

食後には、それぞれ感想をひと言ずつお話いただきました。婦人会長さんが「自分が苦労して担当した揚げものが一番おいしかったです」と素直な感想をお話下さいました。

どれもおいしいと思いますが、中でもなぜ自分が手をかけた料理を最もおいしく感じたのか・・味というのはどういうことなのか、五観の偈の「彼の来処を量る」の意味と合わせて、午後の講義で解説させていただきました。

午後からの一般参加者も合流して、本堂にて精進料理に関する講話を行いました。

浄土真宗と曹洞宗の考え方の違い、そして共通する部分を、永平寺の修行のようすをスライドで流しながらお話させていただきました。

正直申し上げて諸々の準備やら片付けやら、前後を含めて大変疲れましたが、その分とても良い自分の勉強になりました。精進料理教室ですから参加者に教える立場でありますが、逆に教わることが多いのです。特に今回はちょっとした合間や、前後のメールなどを通じて浄土真宗さまの考え方や直面している懸案事項、今後の展望などいろいろとお聞きすることができたのはとてもためになりました。頑張っている坊守さまやご住職様を見て、私も努力しなければなあー、と良い刺激をいただきました。

最後に事故やトラブルなく、なんとか企画を終えることができたことを御本尊様に感謝申し上げ、閉式となりました。

長時間の企画にもかかわらず、笑顔をたやさず一生懸命行じてくださった婦人会の皆様、そして事前に何度も細かなやりとりを重ねてご準備くださった坊守さまと御住職さまに深く御礼申し上げます。ありがとうございました。

なお寶満寺さまのフェイスブックにも当日の様子がとても詳しく報告されています。そちらも合わせてご覧いただくとおもしろいと思います。

寶萬寺さまフェイスブックはこちら

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