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手作りの梅干し完成! 手間をかけることの大切さ

さて、今日は以前紹介した梅干しの土用干しについて、少しその後の御報告をしたいと思います。


前回の解説通り、晴れた日に梅を干している様子です。
大規模生産業者では、急な雨にも対応できるように、ビニールハウスで土用干しをする場合が多いようですが、やはりこうして直接太陽にあてた方が、なんだかお天道様の力をしみこませているように感じるのです。
太陽のパワーをたくさん浴びた梅干し、いかにも身体に良いような気がするでしょう。

3日干した後の状態と、干す前の状態を比べた写真です。
右側の干していない梅と比べると、左側はまさしく「梅干し」って感じがしますよね。
確かに土用干しには手間がかかるのですが、やはり手間をかければかけただけ、おいしくなる見本だと思います。

土用干しを終えた梅は、再び梅酢に戻し、冷暗所で1週間以上漬け込みます。今度は、長期保存の場合以外はそれほど重しをかける必要はありません。

どうですか、口の中に、じんわりと酸っぱい味が広がりませんか?
この梅干しの酸っぱさが、夏バテを乗り切り、健康な身体を作る素になるのです。

今の時代、手作りの梅干しを作るご家庭は、非常に少なくなっています。
都市部は別としても、一昔前までは、農村では梅干しを買うなんていうのはある種の贅沢で、それにもし都市部の方が買うにしても、いわゆる今のような市販の梅干しは市場に流通しておらず、結局誰かが作った、こうした手作りの梅干しを購入していたわけです。

確かに、現在の社会状況では、まず梅の実が以前のようには手に入らないことでしょう。当寺のように裏山に梅の木がたくさんある家はある意味幸せなのかもしれません。
また、職業の多様化により、何日も手間をかけて梅を漬ける時間がない方も多いことでしょう。

もちろん、そうした環境の方に、無理に手作りの梅干しを勧める気はありません。
現実的に、そこまで料理に手をかける時間がない方が多いことは理解しております。

しかし、私は思うのです。
だからといって、私のような精進料理を専門にする者までが、安易に手作りのすばらしさ、手間をかけた料理の良さを敬遠してはいけないのではないか、と。

私は精進料理のすばらしさをなるべく多くの方に伝えていきたいと願って諸々の活動を行っております。
しかし、特に単発的な出版の仕事の場合、あまり難しい料理を紹介する企画は、誌面のスペース的にも、また読者の興味的にも、あまり喜ばれない傾向にあります。
料理教室でも、時間の制約から、どうしても手間がかかる料理は選択しにくいことになります。

そんな時、無理にこちら側の意見だけを主張しても仕事は進みませんので、編集部や料理教室参加者との間で妥協点を見いだすことになります。そうした場合、たいていは初心者の方にもとっつきやすい内容の企画になることがほとんどです。

もちろん、それはそれで意味がある企画ですので、不満はないのですが、「家庭でできる簡単レシピ」「手間なしでササッと作れる」「便利で手軽の3分クッキング」というようなタイトルで、できるかぎり手順を省略した精進料理ばかりを世に伝えていることに疑問を感じることが多くなってきました。

そうした企画の必要性も十分に理解できるのですが、しかしながら、それは長い目で見るとある種の誤解を与えることになるのではないか、と思うのです。
やはり精進料理の本質は、手間を惜しまず、料理と真剣に向き合って調理することにあります。

たとえば、一般の方に坐禅を体験してもらう場合は、時間も短くし、場合によってはイス坐禅などの取り組みやすい方式を試みます。また法話をする際も、なるべくわかりやすいように工夫してお話しいたします。
しかし、だからといってその和尚本人までが、自らの修行としての坐禅を簡略化したり、一般向けの簡単な仏教書だけ読んでいればいいことにはならないのです。
一般の方と接する場合とは一線を画し、自分の時間には、厳しい修行を行い、難しい仏教書の勉強もするのです。そうでなければ、より深い修行を求める方に対応できないではないですか。

また、一般の方に接する時でも、常に自らが日頃修行しているのと同じ、高い内容のものを体験させるべきだ、とおっしゃる僧もおられます。
一般の人に理解できるかどうかは別として、とにかく本物の仏教に触れさせ、体験してもらうことが大事で、無理にレベルを落として接する必要はない、というのです。

そうした立場も確かに大切だと思います。
たとえば大本山の長時間にわたる厳粛なる大法要を目の当たりにして、感銘を受ける方は大勢おられます。この場合、見る人に気を使って法要を短くする必要は、ないと思います。

しかし、それは、大本山にまで足を運ぶ意志のある、いわば積極的な方の場合です。
いきなり寺に来た初心者に45分の本格的な坐禅をしてもらったり、難しくて意味のわからない高度な法話をしたら、おそらくほとんどの方がもう次は参加さえしないのではないでしょうか。

ですので、やはりある程度は対象に応じて、伝える側が色々と各種調整をする必要があると思います。

要するに、簡単レシピやお手軽クッキングはあくまでなるべく多くの方に、精進料理に興味を持ってもらうための窓口、とっかかりであって、そうした企画も大切にしつつ、自分の中ではさらにその先の、本物の精進料理の領域も大切に守り、また研鑽を続けていかなくてはいけないと強く感じているのです。
いくら精進料理に興味を持っていただいた方が増え、裾野が広がっても、その頂点が低くては意味がありません。道元禅師が遺された素晴らしき精進料理の高嶺に、少しでも自分が近づかなくてはいけません。

そして、たとえば今回の梅干しのような、先輩方が遺してくださったノウハウとおおいなる智慧を、後世に伝えていかなくてはいけないと思うのです。
手間をかければ、かけただけおいしい味と健康への効能が期待できるのです。

時間がない方でも、それを見て、もしわずか数人でも、手作りに挑戦しようと思う方も出るかもしれないし、たとえ時間がなくて実際には作れなくても、手作り本来のすばらしさだけでもわかってくれたら、それはそれでありがたいご縁だと思います。

依頼される出版や料理教室では、依頼主の意向が重要になります。
ですから、まったく自分の判断だけで進めることができる当ブログで、今回の手作り梅干しのような、本格的な手間のかかる精進料理も、折を見て紹介していきたいと思っております。

偉そうなことを申しました。
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