参拝者が永平寺に入ってすぐ、下足を脱いで受付ホールの方に進む廊下の左手奥に、「正宝閣」という建物があります。
永平寺の寺宝や歴史に関わる文物が常設展示されているいわゆる宝物館です。
その入口扉の前に、三つ置いてあるのは永平寺で実際に使われていた大鏧(だいけい)です。ご家庭の仏壇前においてある「りん」の巨大なもので、読経の際に鳴らします。広い永平寺の堂内に響く特大サイズで、大きさを測るためにスリッパを前に置いてみました。スリッパは約30センチ。大鏧は両手を広げても届かないほどの巨大さです。(他に比較できる小物を持ち合わせておらずスリッパで恐縮です)
どうして大鏧が三つこんなところにおいてあるの???と不思議に思って近寄ると解説文が。
100年以上使用した結果、内部が金属の寿命で割れてしまったため、このたび新しいものに交換され、ここに展示してあるのだそうです。
地方寺院とは使用頻度が格段に多く、酷使されるため寿命も100年ほどが限界なのでしょう。
修行時代、最初の1~2年は、この鐘に近づくことさえできません。大鏧は一度鳴らしてしまったら、出した音を止めることはできないので、間違えたタイミングで打ったり、音の強弱や鳴らすリズムを身体で覚え、法要のことを熟知した古参僧でないと打たせてもらえないのです。
修行僧たちは、いつかはこの大鏧を打ちたい、と励みにしながら毎日の基本修行に向きあいます。そしてついにその役に就いた時は、間違えのないように、それこそ全神経を集中していい音を出そうと心を込めて鐘を打った遠い記憶が甦りました。
そうした修行僧の100年の思いが乗り移った鐘なんだなあ、としみじみと眺めてきました。
今は自分のお寺でそれこそ当たり前のように鐘を打っていますが、この三つの大鏧を見て、自分の打ち方が慣れでおざなりになってしまっていないか、つい雑に打ってしまうこともあるなあ、あの頃のように一音一音丁寧に打たなければいけないな、と初心に帰ることができました。
修行中のフレッシュな気持ちに立ち返ることができ、御本山は本当にありがたいなあと改めて感じました。