とうもろこしのお粥・誰も作ったことがない謎のお粥とは_臘八摂心五日目

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

○典座老師のとうもろこし粥

攝心も折り返し中日を過ぎて五日目ともなると、人間の順応性は本当によくできており、あれだけ痛くて辛かった身体や眠気が、スーッと消えて、攝心の厳しいリズムに慣れはじめます。
(注・修行一年生はそうもいかず五日目でも引き続き辛い場合がありますけども)

そうすると不思議なことに、攝心のたいへんさを逆に楽しめるようになってくるのです。中には、アーあと何日で終わってしまうのか、なごり惜しいな等と考える猛者さえ出てきます。

物事は、大変なことほど、山場を越えて、ゴールがみえると何だか妙にやる気が出てくるということ、ありますよね。そんな感じです。

そこでそうした頃合いに出すとうもろこしのお粥。
とうもろこしの旬は夏なので、本来なら攝心の時期に作る献立ではないような気がします。しかし私が参学した典座老師は必ず臘八攝心にとうもろこし粥を出していました。
不思議に思って三年目の時、どうしてですか、と聞いたところ、「疲れた修行僧に元気が出るからじゃ」とのお答えでした。いわく、茶色系の料理が続いている中、黒い応量器に鮮やかな黄色はとても映えるのでまず眼で「オッツ?」と感じることができ、そしてとうもろこしの自然な甘い味が、疲れ切った修行僧の脳と身体にとって良い栄養補給になる、とのことでした。
旬の食材を使うのは基本だがこだわりすぎてもいけない、たまには例外もあって良い、そんな自由もまた禅の大切な教えじゃぞ。まあやたらと例外ばかりは困るがな。

そんなことを教えて下さいました。

そしてもう一つ、これは笑い話です。

典座老師は献立を筆で書くのですが、これが達筆なため、慣れない修行僧の場合、ごく稀に読めない字があったりします。その上、和名表記で書くならわしのため、キャベツを甘藍と書いたりカボチャを南爪と書いたり、料理が苦手な修行僧にとっては献立の筆書きを判読するのがまず第一の関門?だったりするのです。

どうしても読めない場合は、いちいちそんなことで典座老師に聞きにいかず、まず同輩や先輩に教えてもらうのが常でした。

典座老師への参学が長くなると、献立のクセもよくわかってきます。老師はとうもろこし粥と書くこともあれば、玉蜀黍と書くことも、時折カタカナでコーンと書くこともありました。いろいろな表記の仕方をすることで、やる気のある修行僧の勉強になるように、との配慮からだったのだと思います。そして老師は古い方なのでカタカナ食材の筆文字表記が独特でした。

ある日、いつもは「とうもろこし粥」と書かれるところを、「コーン粥」となぜかカタカナで書いたことがありました。これを修行僧Aが「こーそ粥」と呼んでしまったのです。(実際、ン ではなくソに みえるような独特の筆字でした)

永平寺を開いた道元禅師を、尊称と諡号を合わせて「高祖承陽大師(こうそ じょうようだいし)」とお呼びします。それを永平寺内での僧侶同士の講義などでは「高祖さま(こうそさま)はこうおっしゃった」などと言います。
そう、献立をみた修行僧Aは恐れ多くも「コーン粥」を「コーソ粥」と誤読してしまったのです。

当然、どんなお粥でどう作れば良いかわからず、修行仲間Bに「なあ、明日コーソ粥らしいんだけど、高祖様のお粥ってどういうお粥?今まで食べたことあった?」と聞きました。
BC「いやーそれははじめてだな。もしかしたら我々がだいぶ台所係に慣れてきたから、ちょっと難しい秘伝のおかゆをそろそろ伝授してくれるのかもしれん。誰も作り方や材料がわからないから、看糧さん(かんりょうさん・古株の修行僧が任じられる台所役職名)に聞くしかないね」

A「失礼します。看糧さん、高祖様のお粥の作り方を教えて下さい。」
看糧さん「ハア?何?」

A「コーソ粥です」

看糧さん「それはコーン粥だ!とうもろこしを用意!」

てな、落語のようなことがあり、台所では本当は一切笑ってはいけないのですがそのときばかりは全員悶絶して大笑いしたことがありました。ちなみにゆかいな修行僧ABとは今も仲良くさせて頂いています。

台所修行、辛かった事も含めてとても楽しかったですヨ。

○とうもろこしのお粥の調理手順とレシピ

初日に紹介した白かゆの手順とまったく同様に進めます。

1 お米60mlを研いで30分ほど水に浸けます。

2 お米を鍋に移し、水360ml~400mlを加えて強火で加熱します。

3 沸騰したらごく弱火に落とし、軽く一度だけお米を混ぜて張り付いたお米をさっとほぐし、ふたをして25分炊きます。

(ここまでは白かゆとまったく同じ手順です。)

4 とうもろこし150gほどを用意し、ざっと100gと50gに分けます。
100gの方を、フードプロセッサーやミキサーの容器に入れておきます。

今の時期はとうもろこしは出回っていないため、今回は夏に収穫して実の部分だけをかつらむきして冷凍しておいたものを使います。
粒のとうもろこし缶詰や、冷凍コーンでもかまいません。その場合は一粒ごとのバラバラになっています。写真のようにかつらむきの場合はつながった状態ですが、どちらでもかまいません。

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

5 小鍋に昆布ダシ50ml、酒大さじ1を加えて加熱します。少量の昆布だしが用意しにくい場合は水でかまいません。またとうもろこし缶詰を使う場合はダシの代わりに缶詰の汁を使います。

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

30秒ほど沸騰させて酒のアルコール分を抜きます。

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

6 熱いうちに、1の100g分のとうもろこしに注ぎ、すぐにプロセッサーで撹拌し、ドロドロにします。

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

もしうまく回らないときは少し水を足してから撹拌しなおします。

とうもろこしのお粥_精進料理レシピ

7 25分炊いたら鍋のフタを開け、6と、残しておいた粒のままのとうもろこしを入れて軽く一回だけ混ぜてすぐにフタを閉めます。

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8 火を止めて5分蒸らします。

今回はむいた枝豆50gを彩りとして加えました。

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