包丁選びとお手入れの基本3 買ってはいけない包丁とは

良い包丁の要素として
1「良く切れること」
2「思ったように切れること」
3「切れ味が長持ちすること」
の三つを挙げました。

さらに、これら3つの要素をまとめて言い換えると「研ぎやすい包丁」ということができます。研ぎやすくなければ「良く切れない」し「思ったように切れない」し「切れ味が長持ちしない」ことになってしまうし、逆に研ぎやすければおのずから「良く切れる」「思ったように切れる」「切れ味が長持ちする」結果となるのです。

文字で読めば当たり前なのですが、しかし!実際はこれらの条件と全く異なる包丁が世の中の大半を占めているといっても過言ではありません。

断っておきますがこれから書く内容は、あくまでも私個人の経験に基づく現時点での見解です。お持ちの包丁を批判否定することにもなってしまうこともあるためご不快に感じる方もおられるかもしれません。
しかし逆に「そんなの知らなかった!」「早く教えて欲しかった!」と思われる方もおられるはずなので、一料理人の個人的見解としてご参考になさっていただければ幸いです。
突然言われたのでは容易には受け入れがたい情報を素直に納得してもらうために、ここまで長々と良い包丁の条件を先に書いてきたことをご理解願いたいと思います。

結論から言うと、一般家庭ではホームセンターやスーパーやデパートの料理道具コーナーなどで包丁を購入することが多いと思いますが、残念ながらこれらの売り場で1000円~3000円くらいで売っている包丁は、まず「良い包丁の要素」を満たしていないものが多いです。
(当然のことですが、お店によって売っている品が違いますし、全ての品をチェックしたわけではありませんから、あくまでも総論的意見であり、全てがダメというわけではありません)

別にホームセンターやスーパーを攻撃したいのではありませんし、個人商店でも同様のものは売っていると思いますが、具体的にダメな包丁の写真やメーカーをここで出すわけにはいかないので、多くの方がイメージしやすいようにこうした表現をしています。
お近くの量販店に行って包丁売り場をみると、透明なプラスチックのケースなどに包丁とパッケージが入って、各種売り場につり下げられているのを確認できるでしょう。

だいたい握り部分がプラスチックのもので1000円前後、握り部分に少し飾りが入っていたり木製だったり、本体側面に漢字のブランド名のようなものが入っていたりすると2~3000円前後という感じですかね。そしてその素材はまず9割方「ステンレス」またはそれに準じた錆びない素材です。
側面の様子を見るとツルツル光っている感じです。そしてパッケージには「錆びない」と書いてある場合が多いです。

こうした包丁がなぜダメかというと、要素3「切れ味が長持ちすること」が満たされないからです。
こうした包丁も、一昔前に比べて企業努力により格段に性能が上がってきていて、買ってすぐはとても良く切れます。これが1000円の包丁??と驚くくらい良く切れます。
ただし!それは残念ながら最初だけなのです。

使用頻度や切るものの堅さにより異なりますが、だいたい早くて1ヶ月、遅くても2~3ヶ月くらいで切れなくなってきます。徐々に切れ味が落ちてくるので、使っている本人は気が付かない事が多いです。
使っているうちに切れなくなるのはどんな高級包丁でも同じですが、問題は、こうした安価な包丁は研ぐことが難しいのです。いや、どうしても研ごうとすれば研げないこともないのですが、かなりの労力と技術が必要になります。ある程度包丁研ぎの技術がある私でも、こうしたステンレスの3000円以下の包丁をしっかり研ぐにはあれこれ苦労して30分~1時間はかかります。その上堅いステンレスを研ぐと砥石がかなり削れてしまいますが、1000円の包丁を研ぐのに3000円する砥石を消費するというのも割に合わないということになります。はじめて包丁を研ぐ初心者がこれらの包丁を研ごうとすると、たぶん砥石と包丁をダメにしてしまう可能性が高いでしょう。

以前こんな経験があります。都内の有名包丁屋さんでショーウインドウを眺めていると、某有名新聞社の記者が、「家庭で包丁を研ぐには」というような特集記事をのせる取材のためにちょうどお店に来ました。(狭い店なので会話が全て聞こえる)
自分の勉強になるので、取材のようすを離れて眺めていました。まずはじめに記者さんが、「ではさっそくですが、このお店の製品でなくて申し訳ないのですが、今日の取材で使う包丁を持参しました」とカバンから2~3本の包丁を取り出しましたが、店長さんはそれをちらっと見て「ああ、すまんけどそういう包丁は研ぐ意味ないよ」と即却下してました。
記者さんは驚いた顔をして「え。でもこれ私の家でふだん使っている包丁なんです。今回の記事は、家庭で役立つ内容がコンセプトなので、こういう一般的な包丁でないと記事として困るのですが」みたいなことを言ってましたが、店長さんは「でもその包丁は研げない包丁だから。いくら教えても研げないよ」てな感じで即答し、記者さんは「となるとまず研げる包丁とそうでない包丁があるってことから書かなきゃいけないな?」みたいに困ってました。

私は「まーそりゃそうだなー」と思いながら苦笑してましたが、まさにその時記者さんが取り出した包丁が、上記のホームセンターなどでよく売っているステンレスの包丁だったのです。 (続く)

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