○精進海苔巻の魅力と特徴
今でこそスーパーの総菜コーナーやデパ地下などで出来合いの品を購入することが多い海苔巻きですが、かつて自宅で自作するのが当たり前の、家庭料理の定番献立の一つでした。特に運動会やピクニックなどの行楽や、お盆等で親族が多く集まる際のご馳走として皆に喜ばれる料理です。現在はコロナウイルス対策で大鉢料理を取り分けることは避けられていますが、これまでは通夜や法事などでも太巻きを取り分けて皆でいただくことが多く、仏事といえば海苔巻というイメージを持つ方も多いでしょう。かつて、自宅で手作り料理で仏事が営まれていた頃には、作って並べておけば好きなタイミングで頂けるということから、台所係の作り手も一緒に座って歓談できるという点が仏事に向いていたのではないかとも思われます。
中に巻きこむ具を何にするかもまた楽しみのうちで、色々な味を同時に味わえる特別なご馳走です。精進料理では、海産物や肉系は使いませんので、植物性の素材を、色どりや食感を考慮して3~7品ほど選びます。たとえば1品だけを巻く、かんぴょう巻やたくあん巻、胡瓜のカッパ巻などは海苔巻の定番ですが、これは立派な精進料理です。
供えてからしばらくしてお下げし、自分でいただく際も、時間が経ってもあまり風味が落ちにくいため非常にお供え膳に向いています。今年は新型コロナウイルス対策を考えた場合、自宅でこの海苔巻きを作ってお墓参りに行き、墓地の東屋など屋外で頂くお弁当替わりとしても良いのではないでしょうか。
酢飯にするための合わせ酢は、粉末酢を使うと初心者でも水っぽくなりにくく、味もしっかり付けることができお薦めです。慣れた方は液体の合わせ酢でも良いでしょう。煮て味を付ける際はコクを出すためにザラメ砂糖を使うことをお薦めしますが、無ければ白砂糖でもかまいません。海苔巻きは作ってすぐに頂くよりも、巻いてから時間が経って頂く場合も多く、長持ちさせるためにもふだんの煮物よりも少し濃い目・甘めに煮ると良いでしょう。巻き込む具はいろいろと工夫してみると良いと思います。
○精進海苔巻の調理手順とレシピ
☆海苔巻き4本分、切って25~30個分の分量です
1 お米3合を研ぎ、ザルに15分以上あげて吸水させます。
2 炊飯釜にお米を移し、3合の基準線からほんの1ミリほど減らして水を張り、酒大さじ3、塩小さじ1を加え、昆布7~10gほどを上に載せて炊飯します。
3 かんぴょう30gを戻します。品によっては薬品臭がキツイ場合もあるので、まずぬるま湯に3分ほど浸けてふやかせたらちぎれないように気を付けながら全体的にもみ、初期に出る濃い戻し汁を捨てて、新たなぬるま湯に浸け直して10分以上おきます。
このようにきれいに柔らかく、肉厚状態に戻します。
4 ごぼう120gの土をタワシでこすって洗い、きれいにします。
5 縦に1/6または1/8に切ります。
6 水に5分ほど浸けてアクを抜きます。
7 干し椎茸6~8枚を1リットルの水またはぬるま湯で戻し、軸を取り除いて細切りにします。戻し汁は捨てずにとっておきます。
8 ゴボウが入る大きさの鍋に7の椎茸の戻し汁1リットル、酒100ml、みりん大さじ4、ザラメ砂糖大さじ1、白砂糖大さじ1を加えて加熱し、湧いたら中火に落として5分ほど煮ます。
ザラメ砂糖が無い場合は白砂糖を大さじ2杯でもかまいません。
5分ほどしたら3のかんぴょうと7の椎茸を追加します。3種の具のうちゴボウが最も火が通りにくいため、はじめから全て入れてしまうと、かんぴょうが煮えすぎてしまうため、時間差で加えるのです。
椎茸を加えると牛蒡と椎茸のアクがたくさん出るので適宜取り除きます。
9 かんぴょうを加えて3分ほどしたらしょうゆ大さじ2を加えて、さらに5分ほど弱火で煮て、煮汁がほぼ無くなってきたら火を止めます。
10 ほうれん草200gをゆでます。ほうれん草をゆでる際は、沸騰した多めのお湯にまず根元の方だけをひたして、5~10秒ほどしたら手を離して全体をゆでるようにします。最初から全体を鍋に入れてしまうと、堅い根元の方に火が通るまで待つと葉の方がゆですぎになってしまうので、このように根を長くゆでるようにします。
ゆですぎると葉の方が溶けてしまうので長くなりすぎないよう注意し、引き上げたら冷水で冷やし、色止めしてザルにあげます。
11 4束に分けてそろえて水気をしっかりと絞り、根を切り落としておきます。
12 たくあん100gを縦に長く切ります。海苔巻きの場合は市販の甘めで酸味が少ないたくあんが合うと思います。
14 平パットまたは木製の平おひつを水で濡らしてお米が張り付かないようにしてから、炊けたご飯を広げます。
15 粉末寿司飯のもと30~35gほど(すしのこの場合1/2袋)を冷めないうちに手早くふりかけ、しゃもじで縦に切るように混ぜながら、蒸気をうちわで扇いで冷まします。
16 巻きすの上に板海苔を載せ、(裏表に注意)15の酢飯を広げます。このときなるべく丁寧に、両端の方まで均等に広げます。
きれいに巻くコツとして、手前の方を5ミリくらい、奥の方を2センチくらいはご飯を載せず、海苔が出ている状態にしておくとはみ出ること無く、のりしろとなってうまく巻けます。
また今回の場合海苔巻き4本の分量なので、炊けたご飯3合のだいたい1/4が1枚の海苔に載るように考えながら分けて使います。
17 ここまでの作業をしているうちに、鍋で煮た具が冷めてほどよく味が染みこんでいると思います。これを軽く吹いて煮汁の汁気をとっておきます。椎茸とかんぴょうは、少しだけ煮汁が残るくらいに軽く絞っておきます。絞りすぎると味がしなくなってしまいますし、汁気が多いと巻いたときに染み出てしまうのでほどよく加減して下さい。
18 16の上に、ほうれん草、たくあん、かんぴょう、ごぼう、椎茸を並べていきます。ご飯の上の方まで広く並べても良いですし、下のようにご飯の部分が残るように巻いても、どちらでもできます。(断面のようすが少し変わります)
椎茸だけは長い形状ではないので、横に敷き詰める感じで並べます。
また今回五種類を使いましたが、並べる順序は自由です。
19 まきすを手前から奥に丸めるようにして巻いていきます。このとき、少しギュッと手前に軽く押す感じで力を入れながら巻きます。あまり緩く巻くと切った時にバラバラになってしまいます。かといってあまりギシギシに詰めて巻くとおにぎりのような堅い海苔巻きになってしまうので、ほどほどの力加減が求められます。
巻き終わったら側面を除いて具のバランスや形を確認し、楕円すぎればまん丸になるように調整してからまきすを外します。
20 包丁を濡らしてから、引き切る(押し切る)ようにして包丁を滑らすようにして切ります。上から下へズブッと下げる切り方だと、せっかくの丸い切り口がつぶれてしまうので、前後にずらすような感じで包丁の全体を使って切ります。