包丁選びとお手入れの基本10 錆びる素材

最もお薦めする包丁は「ハガネ」で作られたものです。
ところが現在、ハガネの包丁は敬遠されがちのようです。

というのも、はがねの包丁は「錆びる」からです。

これらの写真は、実験のために水に酢と塩を混ぜて包丁にかけ、1時間ほど放置したものです。
みごとにサビが出ています。実際の料理でも酢漬けのミョウガを切ったり、塩をふって板ずりした胡瓜を切れば同様の状態になるため、1時間塩や酢、水で濡れたまま放置すれば錆びてしまいます。

そこでこうして錆びるのが嫌な人がこぞって求めたのが「ステンレス製の包丁」です。
ステンレスは錆びにくい素材なので、実際よほど過酷な環境で荒く使って放置しないかぎりは錆びません。しかしステンレスの包丁は、前回の説明でいうと「硬い素材」なので、切れなくなったらもう研げないのです。(無理すれば研げるが現実的ではない)
特に数十年前に乱造された初期のステンレス包丁はひどいもので、はじめから切れ味が悪くてしかも研げないという、確かに錆びないけれどぜんぜん切れないじゃんか、という最悪のものがたくさん出回りました。現在のステンレス包丁は昔よりは刃付け技術などが向上したものの、やはり総じてハガネよりも切れ味は劣りますし、研ぎにくいことは間違いありません。

これまたバランスの問題になるわけです。「錆びないことを優先させるかわりに切れ味を犠牲にして研げない使い捨てのステンレス包丁を買うか」それとも「錆びるのを我慢して切れ味と研ぎやすさを優先したハガネの包丁を買うか」という選択です。

まあそれは落ちついて考えれば結論は出るはずなのです。
包丁は、切るための道具なのだから、当然切れ味と研ぎやすさを選ぶべきでしょう。

そもそも錆びるといっても、通常の使用ならたいしたサビは出ません。
食材を切り終えたらしっかり水ですすぎ、レモンなどの酸味が強いものや塩気が濃い梅干しなどを切ったらしっかりスポンジで拭いて水洗いするだけです。
私は包丁用の小さなフキンを用意しておき、包丁の水気をマメに拭き取るようにしていますが、身についてしまえばそれほど面倒なことではありませんし、調理時間が長引くようなことはありません。
使い終えてほったらかしにしたまま1週間すれば手遅れなほど錆びてしまいますが、そもそも料理が終わったらきちんと道具を片づければそんな心配はありません。

ステンレス包丁などなかった昔の人は当たり前のようにハガネの包丁を使っていたわけですし、まあ言ってみれば現代人が手抜きしすぎなのかもしれません。
道具を大切に使うという当たり前の気持ちがあれば、包丁の水気をマメに拭き取るくらいのことはおっくうではないはずです。

また、調理中手が離せなくて1時間程度の錆びが出たとしても、そのくらいなら調理後に磨けばきれいにサビは落ちます。


1~2時間程度の軽いサビなら、化学たわしで何度かこすればきれいになります。
スポンジの背中側の硬いザラザラした部分でこすっても良いですし、写真のように化学たわしがあればシンクの汚れを落とすのにも使えて便利です。


けっこう深いサビの場合は、クレンザーなどの磨き粉をまぶせばさらに簡単にサビが落とせます。

そしてしっかり水気を拭きとって保管すれば錆びることはありません。
ちなみに専門書などを見ると「ガスレンジの火にかざして水気を蒸発させる」などと書いてありますがそんな危険を冒す必要はまったくないと思います。磨いた後、蛇口から出る熱湯ですすいで拭き取ればなお湿気が飛びやすいですが、まあ水でも良く拭けば大丈夫です。

とくに湿気が高い場所に長期間保管する場合は、刃物用の油を薄く塗ってのばしておくか、市販のサビ止め紙(数百円)に包んでおけば数年は問題ありません。


防錆紙に包めば安心

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