銚子のしょうゆ工場を見学

料理の仕事で遠方に出かける際は、できるだけその土地の食を実体験する機会を設けるように心がけています。寶満寺さまの精進料理教室にお伺いする道中、早めに到着するよう調整してしょうゆ蔵を見学してきました。

しょうゆは精進料理の味を調えるために欠かせない重要な調味料です。日頃からどのメーカーのどの銘柄のしょうゆをどう使えばどういった味に仕上がるか試行錯誤していますが、製造元を自分の眼で確かめることもまた研究の一環です。

しょうゆの起源は仏教僧だという説もあるほど、精進料理とは切り離すことができない深き関わりをもっています。

千葉県といえば醤油生産で有名です。かつて、醤油は主に近畿地方または小豆島などの讃岐地方で製造されていました。江戸幕府が開かれると、重い醤油を江戸まで運ぶよりも近郊で生産する必要性が高まります。

銚子は暖流と寒流がぶつかりあうため夏は涼しく冬は暖かく、湿度も高い海洋性の気候風土が特徴で、醤油をつくるための微生物に適しています。また利根川や江戸川でしょうゆを江戸まで船で運ぶにも適しており、以後良質のしょうゆが作られることとなったのです。

現代の製法としては、

1大豆を蒸す→ 2小麦を炒ってくだく(炒ることで香りが出る)→ 3麹、大豆、小麦を混ぜる → 4塩水と混ぜてタンクへ移しもろみをつくる → 5発酵を待ち、布でつつんでゆっくり絞ることで なましょうゆができあがる → 6加熱殺菌し、味や色、香りを調えてできあがり

手順は同じでも、その細かい方法や分量、こうじの種類などによって仕上がりは大きくかわります。そのあたりの秘密を知ることができるのも工場見学の醍醐味です。

まずはじめに訪れたのは「ヤマサ」さん。しょうゆ藏というよりもしょうゆ工場という呼び方がふさわしい大規模で近代的な設備で、案内の方が丁寧に説明してくださり、製造法をまとめた映画を見た後実際の工場内部を案内してくれます。工場内はとても良い香りが漂っていて、タンクや原料が運ばれる様子を見てその生産量の多さを実感しました。

20mもあるサイロには300トンもの原料が入るそうですが、4日間で使い切ってしまうそうです。原料の大豆はアメリカ、小麦はカナダ、塩はメキシコやオーストラリアから運ばれ、海岸に立地していることで頻繁に船から運び入れられます。巨大なタンク1つで1Lしょうゆ2万本分で、できあがった製品は国内のみならずふたたび海外にも運ばれるそうで、和食の人気向上によりしょうゆの海外ニーズも急増しているのだそうです。以前は木製の樽を使っていましたがそれではとても生産量がまにあわなくなり、今は鉄に樹脂を塗った大樽で生産されています。

ヤマサしょうゆ工場見学

ヤマサしょうゆ工場見学

銚子しょうゆ蔵見学 銚子しょうゆ蔵見学

工場見学の後には直売所だけで入手できるというレアな「甕仕込み醤油」を狙います。バスで到着した団体見学者たちが押し寄せ、たくさん並んでいた棚がみるみるうちに減っていく中、なんとか確保できました。タイミングが悪いと売り切れてしまうことも多いのだとか。

銚子しょうゆ蔵見学

味は濃厚で芳醇、深みのある味が出しやすく、和食に向いています。ただし少々価格が高いことと、一般店舗では入手できないことから残念ながら普段使いには適さないようです。しかしこれほど美味しいしょうゆであれば是非市販していただきたいものです。

銚子しょうゆ蔵見学

次にはヒゲタしょうゆさんを訪れました。こちらはヤマサさんよりももっとダイレクトに製造現場を見ることができました。工場の雰囲気や社員さんの応対、パンフレットのデザインや見学の内容などなど、カラーの違いやニュアンスの差を実感できたことは、これからしょうゆを使い分けるための良いリアル情報となりました。工場の中はものすごく良い和の香りに溢れていました! 麹は生きた生物なのでどう作用するかは予測不能が部分があり、同じ味に調えるのはとても難しいのだそうです。均一な味に仕上げるための工夫や苦労を伺うことができました。現在は空調や消毒なども高度な技術で管理できるようになりましたが、昔はいろいろと大変だったそうで、展示された道具からもそうした先人の努力が伝わってきました。

しょうゆ一滴作るにも、多くの職人さんが大きな苦労の末に必死で生産しています。その現場を実体験することで、今まで以上に感謝しておしょうゆを使うことができるようになりました。

銚子しょうゆ蔵見学

ヒゲタしょうゆ工場見学銚子しょうゆ蔵見学

ヒゲタさんのおしょうゆをお土産にいただきました。

銚子しょうゆ蔵見学

ヒゲタさんの直売所で購入したのは、千葉県南房総にある料理の神さま。高家神社に毎年奉納しているという特別な限定生産しょうゆ、「高倍」です。国内原料だけでつくられており、その容器もまた御神饌らしく風格高い仕上がりです。味は思ったよりアッサリした第一印象の後にコクが徐々に広がっていくような上質な風味で、お吸い物などの繊細な料理に最適だと思いました。

銚子しょうゆ蔵見学

銚子しょうゆ蔵見学

工場見学の後は、駅前の土産店や売店を回ってそれ以外のしょうゆをいろいろ物色してみました。群馬では見かけたことがない珍しい醤油を数点購入しましたが、原料、製法、こうじなどによって全く風味が異なる仕上がりにあらためて驚き、料理ごとに使い分けることの大切さを再確認することができました。

香りがふくよかで甘みが強いこのしょうゆは、佃煮など長時間煮詰める料理や、煮物の仕上げなど最終段階に加える香りつけに最適でした。

銚子しょうゆ蔵見学

洋風にデザインされた現代的なおしょうゆ。洋食にもよく合います。

銚子しょうゆ蔵見学

しょうゆの原型、ひしお。うま味成分が濃厚な素材で、料理の隠し味として最適です。

銚子しょうゆ蔵見学

しょうゆ王国、銚子の名物料理、金目鯛の煮付け。これも濃厚なしょうゆの文化があってこそ生まれた地元の味なのだと思います。その土地の歴史や風土を知り、食の特徴を知ることで料理の幅が広がっていきます。これだから料理探訪はおもしろいのです。またどこか遠方のお仕事がないかなあ!

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