相手が食べるまでが典座の責任

 昨日、ある写真が逆さま向きに撮影されていたという話をしましたが、それに因んで精進料理の調理実践における師の言葉をご紹介します。

 わが精進料理の師は常々「相手が食べるまでが料理人の責任じゃぞ」と申しておりました。どういうことかと言いますと、寺が大きくなると、味付けをしてうつわに盛りつけた後は別の係がそれを運搬し、また別の者が給仕するのが通常です。大きな旅館などでも、板前さんと仲居さんに分かれていますから同じです。
 せっかく典座和尚が入念に調理しても、たとえば運ぶ際に係がお盆を傾けてしまったら盛りつけが乱れてしまうわけですし、配膳する際に向きを逆さまにして出してしまったら相手に失礼になってしまいます。
 また、食べる人が席に着くまでしばらく間が空く場合は、汁を鍋ごと準備室に運び、給仕係が汁を再加熱することもあります。その場合、経験不足の者がそれを担当すると、加熱しすぎてしまって汁が煮詰まり、風味が失われたり味が濃くなってしまったりすることがよくあります。

 そのため、必ず典座和尚、あるいは補佐役の者が準備室にまで同行して、実際に食事が相手に出されるまでしっかり見届ける、というのが師の教えで、私もよく現場まで同行した思い出があります。実際に給仕の状況を把握することによって、より良い状態で相手の口に運ばれるにはどう調理すればよいか、ということを考えることにもつながるのです。
 そうすれば、今回の写真ではないですけど、逆さま向きに相手の席に運ばれたりすることも防げるわけです。

 このように細かい点にも配慮を忘れない師の姿勢は、まさに『典座教訓』の実践者であり、そうしたすばらしい師に指導を受けることができた仏縁に深く感謝しております。

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