精進料理と調理酒5 日本酒の基礎知識

 さて、非常に安価な調理酒には酒税法対策で塩が混ぜてあり、私としては精進料理にはお薦めしないことを前回ご紹介しました。
 じゃあ、逆に値段が高いお酒なら良いのかな、と思いの方もいるでしょう。
 ところが高級日本酒もまた調理酒には向いていないのです。

 結論としては安すぎるのもダメ、高すぎるのもダメ、ということになるのですが、それはなぜなのかを理解するために、本日は日本酒の種類についておおまかに解説します。
 

 はじめに日本酒の定義を確認すると、酒税法第3条第7号で「原料にお米を使うこと、そしてその製造過程で「漉す(こす)」という作業を経ること、」という2つの条件が定められています。

 そして平成18年5月1日に施行されたいわゆる新酒税法の定義では、
 『酒 ・米、米こうじ、水を原料として発酵させてこしたもの(アルコール分22度未満のもの)あるいは米、米こうじ、水、清酒かす等を原料として発酵させてこしたもの(アルコール分22度未満のもの)を「清酒」と呼び、アルコール、しょうちゅう又は清酒とぶどう糖等を原料として製造した酒類で清酒に類似するもの(アルコール分16度未満等のもの)を「合成清酒」とよぶ』ことになっています。

 つまり、日本酒は「清酒」と「合成清酒」の二つに分けることができるのです。合成清酒というのは、まあ文字からもだいたい推測できると思いますが、アルコールに糖類、有機酸、アミノ酸、日本酒の成分などを加えて、清酒のような風味にしたお酒のことです。いわば、昔から造られている伝統的製法の清酒に対して、製造方法や材料を工夫し、なるべく安価で、清酒に似せたお酒を開発したというわけです。
 特に大戦中は、日本酒の原料であるお米が足りなくなったため、なるべくお米を使わないでいろいろなものを混ぜて作るお酒として大人気となりました。(通称「三増酒」というのですが、アルコールの臭いがして、味は甘めで、私の場合は飲むとだいたい次の日頭が痛くなります。)
 三増酒は戦中戦後だけにでまわったのではなく、その後も長い間各メーカーの主力として作られてきました。まあ、「うちの父ちゃんなんか酔ってしまえばどんなお酒でも同じ、なるべく安い方が家計に良い」ということでしょうか。
 しかしバブル後の日本酒ブームごろから、各メーカーが香りも良くすっきりした日本酒(清酒)に力を入れるようになり、最近はお店の棚を見ても合成清酒の割合はそれほど多くありません。
 しかし合成清酒は清酒よりも酒税が安いので、販売価格が安く設定できるため、今でも根強く作られています。

 次に「清酒」について解説しますが、清酒は原料や製造法によって8つの種類に分けられます。代表的な3つをあげると
 ○本醸造酒(ほんぞうじょうしゅ) 原料は米、米こうじ、醸造アルコール
                       精米歩合70%以下
 ○純米酒(じゅんまいしゅ) 原料は米、米こうじのみ
                   精米歩合は純米吟醸の場合60%以下
 ○大吟醸酒(だいぎんじょうしゅ) 原料は米、米こうじ、醸造アルコール
                       精米歩合50%以下

 ほかにも特別本醸造酒とか特別純米酒などがあるのですが、今はわかりやすいように上記の3種類をあげて説明します。
 一般的に、精米歩合の数字が少なくなるほど(上の三つでいえば、下の大吟醸酒が一番高い)価格が高くなります。
 理由はいくつかあるのですが、主な理由は「精米歩合」によります。精米ってわかりますよね。お店で売っているいわゆる白いお米は精米された状態のお米です。収穫されたおこめは薄茶色のカラ?に包まれています。そのままのお米を「玄米」といいます。玄米の表面のカラの部分を削るのが「精米」です。表面を削ると白いお米になるっていうわけです。なお精米した時に出る、削ったカラの部分が「ぬか」で、たけのこをゆでたり大根の下ゆでに使ったり、ぬか漬けを作ったりするのに使います。

 ちなみに、玄米のままの方が保存に適しているので、農家では自分の家で食べる分は一度に精米せず、玄米のままで保管し、食べる分だけ精米するのです。そのため農村部では農協などの片隅に「自動精米器」という大型の機械が据え付けてあって、持参した玄米をその機械に入れて、ジュースの自動販売機みたいにコインを入れると自動で精米してくれる便利な機械があるのです。最近は家庭用の小型精米器が流行っているようで、一般の家庭でも玄米の状態で購入し、コーヒーメーカーくらいの大きさの精米器で精米して白米にし、精米したてのお米を食べるってのがひそかなブームのようです。
(農村で育った私にとっては当たり前のことですが、今はリアルな水田を知らない人も多いので、たまに玄米と精米と白米の関係を知らない人がいますけど、日本人として知っておくべきことだと思いますのでこの際覚えて下さいね。
おっとっと話が脱線しすぎました)

 「精米歩合△%」というのは、玄米の皮というかカラというか要するに表層部を△%削り取ることをいいます。例えばわかりやすくするために細かい要素を省いて考えると、本醸造酒の「精米歩合70%」の場合、仮に100gの玄米があったとすると30gが削られて取り除かれ、70gの白米ができるわけです。大吟醸の「精米歩合50%」なら、100gの玄米に対して50gが削られて50gの白米しかできないことになります。
 同じ100gの玄米で、本醸造の場合70gのお米、大吟醸の場合50gのお米ができるということは、大吟醸の方が同じ量のお酒を作るにはたくさんのお米が必要になるわけで、当然その分製品の価格が高くなるわけです。

 ちなみに、食べる時のお米はだいたい「精米歩合92%」くらいといわれていて、8%の表皮が削られていることになります。ということは、大吟醸の精米歩合50%というのはものすごく削っていることがわかりますよね。

 ここまで読んだ方は、「じゃあどうしてわざわざそんなにお米を削ってしまうのか」と思うでしょう。一般的に、たくさん削った方が、すっきりとした飲みやすい味で、のどごしも良く、色も透明になり、香りも良くなります。極端にいえば、オシャレなお店に置いてあり、フルーティで品がよい白ワインのような飲み口で、女性にもお勧めというイメージです。逆に、あまり精米しない場合は、紅茶のような色がついていて、いかにも日本酒的な香りがして、味もけっこう辛口になります。おでん屋さんとか、オヤジに合うイメージでしょうか。(あくまでわかりやすくするための極端なイメージ設定ですので御了承下さい。実際の日本酒の味を私の下手な文章で伝えるのは限界がありますので、自分で大吟醸と本醸造を買ってきて飲み比べて見て下さい。また、大吟醸の方が良くて本醸造は安物でダメ、ということをいっているのではありません。あくまでそれは好みの問題で、日本酒の場合値段はあまり関係ありません。大吟醸なんか高いだけで飲んだ気がしない、本醸造の方が味がある、という方も多いのです。また、熱燗にするにはむしろ本醸造の方が向いています。)

 日本酒の種類についてよくわかったと思います。しかしこの説明はあくまでこれからの説明に必要な基礎知識の部分にすぎません。じゃあどれが調理酒に向いているのか、という一番肝心な部分を次回説明しますのでお見逃し無く。

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