精進料理と調理酒6 調理酒に向く日本酒とは

さて、前回日本酒の分類についてお話ししました。
では、今回はその多くの分類の中で、調理酒に向く日本酒はいったいどれになるのかをご説明致します。

前回、お酒を作る際に玄米を精米するとご紹介致しましたが、じつはこの玄米の表面にこそ、料理をおいしくする成分が多く含まれているのです。
玄米の表面には、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル等の栄養が多く含まれています。最近玄米食が健康に良いと見直されているのはそのためです。
また、同じく表面部分に、うま味成分であるアミノ酸が多いということに特に注目しなくてはなりません。以前ダシの説明の際にも触れましたが、アミノ酸やイノシン酸など、種類の違ううま味成分が混ざると相乗効果でさらに味がよくなるということがわかっています。
すなわち、もし調理酒にアミノ酸などのうま味成分が含まれていたとしたら、昆布や椎茸などに含まれるうま味成分と、調理酒のうま味成分が混ざって、よりよい味わいが生まれる、ということになるのです。

ところが、前回説明したとおり、日本酒を醸造する過程で、玄米の表面に含まれるうま味成分は、精米により削り落とされてしてうのです。大吟醸など一般的に価格が高いお酒ほど、より精米歩合を高くするわけですが、言い換えれば高価なお酒ほど玄米の表面のうま味成分を削り落としているのです。

なぜわざわざ栄養分やうま味成分を削ってしまうのでしょう。
それは、日本酒はあくまで飲むためのものとして造られており、調理酒として造られているわけではないからです。調理酒としては表面部分のアミノ酸が大事だといっても、飲むにはあまり重要ではありません。アミノ酸などのうま味成分は、塩気と同時に口に入れてこそ意味があり、それだけをなめてみてもほとんど違いはわかりません。
仮に精米しないで日本酒を醸造すると、まず製造過程が非常に大変になるのだそうです。また、できあがったお酒に薄茶色の色がつき、味や香りがあまり良くないお酒になってしまうのだとか。やはりある程度精米しないと、のどごし、香り、色、味などの面で不利で、高級なお酒ほど精米度が高いのはそのためなのです。

↑左は大吟醸。ほとんど色がないのがわかるでしょう。右は本醸造酒。色は濃いめですが、それは玄米表面の成分によるもので、これが調理酒に重要な要素になるのです。

ということで、まず大吟醸など、精米歩合が高いお酒は、調理酒にはあまり向いていないということがおわかりになったでしょうか。
結論としては、
「安いお酒も塩が入っているからダメ、高いお酒は精米しすぎてうま味成分が削られているからダメ。」
「清酒の中でいえば、本醸造酒、あるいは特別本醸造酒などがお薦めで、純米酒ならば精米歩合が低いものを選ぶ」ということになります。
精米歩合は日本酒のラベルに書いてある場合が多いので、購入する際は確認すると良いでしょう。だいたい720mlで500円~800円くらいの日本酒ならば間違いありません。
これを知らないと、「今日の調理は大切なお客様に出すものだから、お金に糸目をつけず、材料も厳選しなくちゃ。なので調理酒も高価な大吟醸にしよう!」というのは愚かな行為だということがわかったと思います。

また、合成清酒も一般的に調理酒に向いていますが、前回説明したとおり、合成清酒はいろいろな成分を加えて化学的に作ったお酒なので、中にはうま味成分が加えてあるものもあります。天然のうま味成分であれば良いのですが、人工的なものの場合、たとえばお酒に「味の○」とか「いの一○」が入っているようなものなので、かえって料理の味をおかしくしてしまう場合があるため注意が必要です。

↑一升で約500円の合成清酒。このアミノ酸は天然ではありません。調理酒には・・・天然昆布を使う場合の精進料理にはちょっと向いていません。

なお、以上の解説はあくまで一般的なもので、数多くある日本酒にはそれぞれ違う特徴があります。同じ酒蔵でも、銘柄が違えば製法も違い、その結果味も違うのです。精米歩合が高くてもうま味成分が多いものもあれば、逆に上記説明の通り本醸造酒を購入したけれどいまいち調理酒に向かない、というものも当然あるのです。
どの日本酒が調理に向いているか、こればかりは各自の好みに応じて自分で探すしかありません。ちなみに私は地酒を愛用しています。やはりその土地の水で造ったものが料理にも良く合うと思いますので。

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