お彼岸の基礎知識

今回から何度かに分けて、春のお彼岸でお供えする精進料理のお膳についての記事を紹介したいと思います。

若い世代のお檀家さんと雑談をすると、「お盆」は「ああ、ご先祖様がかえってくるんでしょ?」というくらいは知っている人が多いのですが、「お彼岸」については、言葉自体は知っているもののそれがどういう日なのかはまったくわからない人が最近増えているように思います。
実際、お盆が近づいてくると「和尚さん、そろそろ忙しくなるでしょう」と声をかけてくれる人はたくさんいますが、お彼岸の場合は、実際お盆と同じくらい忙しいのにそう言われることは少ないです。中には「お彼岸中はお寺が忙しいのでそれ以降にしましょう」と伝えると「はあ。ところでお彼岸っていつなんですか?」と答える人も少なくありません。

地域性や世代の違いもあるでしょうが、どうもお彼岸はお盆に比べてその詳しい内容が知られていないように思います。

そこで、まずはお彼岸とはなんなのかについて説明します。

奈良時代、若くして出家し、仏教を深く信仰した早良親王(のちの崇道天皇)は、政争に巻き込まれて流刑に処されることとなり、絶食して無罪を訴えたものの志半ばで無念の死をとげたと伝えられます。その後皇族の病死や疫病、天災などが相次いだため、春と秋それぞれ季節の節目の七日間にその魂を鎮めるために全国の僧侶に読経させたという記録が『日本後紀』に記されています。
「暑さ寒さも彼岸まで」というように春分秋分は季節の変わり目になるため、時期的に強い風や荒れた天候になる場合が多く、奈良時代に僧侶が天災が起きぬよう祈る期間として選ばれたのもうなずけます。

それがやがて世間に広まり、春と秋には死者を供養し善行を行う期間としてお彼岸が定着したといわれます。そのため、主として日本で行われる仏教行事です。

期間はいつなのかというと、春分の日・秋分の日をはさんで前後3日、合計7日間を「お彼岸」と呼び、中間となる春分の日・秋分の日は「中日(「なかび」ではなく「ちゅうにち」)と呼びます。また初日を「彼岸の入り」、終日を「彼岸の明け」とも言います。
春分の日と秋分の日には太陽が真東から昇って真西に沈むため、西のかなたにある極楽浄土を願う気持ちと重なることからこの期間となったという説もあります。

平成24年の春彼岸で言えば 3月17日から23日までがお彼岸で、20日の春分の日が中日(ちゅうにち)です。

「お彼岸」は仏教語で、ストレートにいえば「向こう岸」という意味です。対してこちら側は「此岸(しがん)」とよびます。
一般的には現世を此岸、極楽を彼岸にたとえて、苦しみの多いこの世から、荒波を乗り越えて安らかな向こう岸にたどりつく、と解釈されます。

そして彼岸にわたるために、仏教の基本的な修行法である「六波羅蜜」を実践しましょう、と説かれます。

「六波羅蜜」とは
1 布施(ふせ)   他人にわけ与えることを惜しまない
2 持戒(じかい)  戒律を保ち、してはいけない悪い行いをしない
3 忍辱(にんにく) 困難に堪え忍び、怒りや恨みに流されず、辛抱強くやりとげる
4 精進(しょうじん)怠け心をおこさず、何ごとにも精一杯努力を続ける
5 禅定(ぜんじょう)坐禅により、おだやかで動じない集中した心を持つ
6 智慧(ちえ)   ものごとの道理を正しく深く理解しようとする

地域によっては、中日はお寺にお参りして先祖供養をおこない、他の前後6日間は自分の修行のために上記の6種類の善行を一日一つづつ積む、と説かれることもあります。
「波羅蜜」は「パーラミーター」というインドの言葉を漢字にあてたもので、意味は「修行の完成」です。つまりお彼岸の期間中にはこれら6種の修行法をはじめとして、特に良い行いを積み、その修行によって自分も「彼岸=向こう岸」、つまり極楽浄土へ近づきたい、と願うのです。
そのためにお寺にお参りして仏の教えを聴き、またすでに彼岸に渡っている御先祖様や亡き人の墓参をして供養し、報恩感謝の念を捧げるのです。

お盆もお彼岸もお墓参りをしてお寺に足を運ぶのは同じなのですが、わかりやすくいえば、どちらかというとお盆は亡き人のためにお参りするのが主であることに対し、お彼岸は生きている私たちのための期間、と理解しても良いでしょう。
私たちが仏の教えにより深く触れて学び、彼岸(向こう岸)に渡れるように努力する期間なのです。

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