ある出版社のお話 その3

さて先輩布教師の驚くべき体験を聞いた私は心配になり編集部に電話してみました。

私「あのう、例の2冊目の法話集ですが、現在どんな進行状況でしょうか?」

担当者から返ってきた言葉は全くの想定外でした。

担当者「え?えーっと、あ、あ、ああ、あーそうですね、あああの法話集、高梨さんも書いて下さったんでしたっけね。おかげさまで無事出版しましたよ」
という感じの、要するにそんなのとっくに出版されていて忘れてた、というようなニュアンスでした。

少しあきれましたが、繰り返しますが私は法話界のペーペーなのであくまでも下手にでて丁寧に聞き返しました。
私「ああ、もう刊行したのですか。私の所には見本誌が届いていないのですが。ずいぶん音沙汰無しなのでおかしいなと思って電話してみたんですよ」

担当者「あ、高梨さんには見本誌を送るのをうっかり忘れていたようですみませんねー。さっそく送りますのでね、少し待っていてください」

私「わかりました。では、約束した監修者による赤字校正点も一緒に送ってくださいね」

担当者「ハイハイ、ではどうも-」

念のためすぐにその出版社のホームページをはじめて見てみると、だいぶ前に発刊済でした。
こちらから連絡しなければ忘れ去られていたようです。
これまでおつきあいしてきた精進料理関係の編集部では、新米の頃を含めてもこうしたぞんざいな扱いはされたことがないので、いい加減な対応に不安感いっぱいでした。

ふつうは見本誌というのは出版日の少し前に著者の元に届くものです。というのも、もし製版された書籍に内容外観等万一のエラーがあった場合に対応できる猶予をもたせるためです。まあそれまでに何度も繰り返しチェックを経ているので実際はそんな直前でのエラー発見はあり得ないのですが、それでもごく稀にですが問題が発覚して出版延期になる例もあるのです。

ですから発売後にこれほど経ってから、著者に指摘されてからやっと手元に届くようでは困るのです。
そしてそれからだいぶ待ってやっと見本誌が届きました。

心配していた、先輩のような本文まるごと1ページ抜け落ちがないことを現物で確認できて一安心しましたが、1冊目に続いてまたもや監修者による赤字校正が同封されていません。掲載された法話は私が提出したまま一文字も変わっていませんでした。

こうした用件で何度も電話をかけるのは本当に嫌なものですが、意を決して電話をしました。
私「あのう、何度もすみません。見本誌が届いたのですが、今回も監修者による校正指導が全くされていなかったようなのですが?」

担当者「あーっ、えっとそうそう、今回も高梨さんの法話は非常に好評でしてね。校正する必要がないくらい素晴らしかったですよ。高梨さんほどの実力ある方には、ぜひ我が社としても懇意にしたいのです。まだ企画は決まっていないのですが、いずれ今度は監修者としてご参加いただきたいのですよ」

いやー、驚きました。次の法話集の執筆を餌にするところまで前回の回答とほぼ同じです。
しかし2回目は通じません。だってもし本当に私をそこまで高評価してくださっているなら、見本誌を送り忘れたり、露骨に失礼な応対をするなんて変でしょう。
もし見本誌がきっちり届いていて、編集部から電話がかかってきてそう言われたのならまたひっかかったかもしれませんが。

私「あのう、大変失礼な質問かもしれませんが、大事なことなのでお聞きします。本当に監修者の老師が、きちんと原稿を見て監修指導してくださっているのですか?」

担当者「何でそんなこと聞くのですか?もちろんしっかり監修しているに決まっているじゃないですか。監修した上で、高梨さんの法話に問題が無いから修正されなかったと言っているでしょ?ずいぶん失礼な質問をしますね、当社の出版物を疑われて、私は不愉快だ!」

という感じで突然興奮しはじめました。
別にやましいことがなければ普通に応対できる質問だと思うのですが・・・
あくまで冷静に続けました。

私「いや、私の法話がそんなに高評価だというのがどうも納得いかなくて。法話界の大先輩たちならともかく、まだまだこの世界かけ出しの私の原稿が一字一句修正されないというのはどうもおかしいと思いまして。ではお聞きしますが、老師方にはどのような形で校正をお願いしているのですか?プリントアウトした実紙を送ってそれに赤字が入るのですか?それともデータで送って目を通してもらう方法とか?また監修者は複数人おられますが、それぞれ担当範囲を分けて決めるのですか、それとも複数人が全員の法話をかぶって校正なさるのですか?」

担当者「答える必要はない!私は担当者としてこれほど侮辱されたことはありません!何を疑っているのだ!」

と益々興奮しはじめました。
うーん、落ち着いた状態で振り返っても、そこまで怒るのは不自然ですね。何か図星なことでもなければ。しかしそこまできたらこちらも言わなくてはいけません。

私「実は私の先輩が1冊目の法話集で・・・」
と原稿まるごと1ページ抜け落ちの件を伝え、「だとしたら監修している老師方はものすごい見落としをしたということになりますよね。普通に監修したなら、必ず気付くと思うのですが。それに別の方の法話の中で、てにをはおかしかったり、誤字が見受けられたりするので、どういった形で監修しているのかを知りたいのです」

担当者「ぐ。(しばし無言)いやもう良いです。あなたには今後お願いしませんから」

とこちらの質問に答えることはなく、一方的に話を終わらせてしまいました。

これ以上は諸事情を考慮し抑えておきますが最後にひと言だけ。
乱暴な解釈をすれば、若手布教師に無報酬で法話原稿を書かせ、監修者の老師方のネームバリューをのっけて本を作り、1万円程度で売る。これは状況からの推測にすぎませんが、もし本当だとしたら、繰り返しますが本当だとしたらとんでもないことですよ。まあ本当の事情は倒産した今ではもう知ることはできませんが。

作者偽装や論文コピペなどが世を騒がしている今、自分の反省を含めて書いてみました。
倒産したとは言えこれは書かないほうがいいかな、と少し思いましたが検索したらその出版社に関する似たような事例が書かれていました。たとえばある研究者がネット上に公開している曹洞宗関係年表を、まるごと無許可でコピーペーストされて書籍に掲載されていた(!)とか。

自分の名誉のために補足すると、私がその2冊の法話集に書いた原稿は、未熟で不充分な点は当然あるでしょうが、現時点の実力で自信を持って全力で執筆したものであり、監修されていようがいまいが胸を張って責任を負うことができます。他の執筆者の法話も同様だと思いますし、素晴らしい内容だと思います。ですからこの事実を知ったからといってこの本の価値が下がることはなく、あくまで著者と出版社の関係に問題があった事例だと考えます。

もちろんその出版社から出ている素晴らしい本もたくさんあり、今でも手近に置いて勉強している本もあるのです。まあしかし実際に倒産したと言うことが全てを物語っているでしょう。
どういった事情があったのかわかりませんが、仏教系の出版社が姿を消してしまうことは残念でなりません。

出版に関わる者として、大変考えさせられる貴重な経験をさせていただきました。

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Posted by 管理主宰者・典座和尚