第5回 典座の職務

○読み下し文所謂、当職の一日夜を経るに、先ず斎時罷に、都寺・監寺等の辺に就きて、翌日の斎粥の物料を打す。所謂、米菜等なり。打得し了りて、之を護惜すること眼睛の如くせよ。保寧の勇禅師曰く、「眼睛なる常住物を護惜せよ」と。之を敬重すること、御饌草料の如くせよ。生物・熟物、倶に此の意を存せよ。

次に諸知事、庫堂に在りて商量すらく、明日は甚の味を喫し、甚の菜を喫し、甚の粥等を設くると。『禅苑清規』に云く、「物料并に斎・粥の味数を打するが如きは、並びに預先庫司知事と商量せよ」と。所謂、知事とは、都寺・監寺・副司・維那・典座・直歳有るなり。味と数とを議定し了らば、方丈・衆寮等の厳浄牌に書呈せよ。然る後に、明朝の粥を設弁す。○よみがな

いわゆる、とうしょくのいちじつやをへるに、まずさいじはに、つうす・かんすらのあたりにつきて、よくじつのさいしゅくのもつりょうをたす。いわゆる、べいさいとうなり。たとくしおわりて、これをごしゃくすること、がんぜいのごとくせよ。ほねいのゆうぜんじいわく、「がんぜいなるじょうじゅうもつをごしゃくせよ」と。これをきょうじゅうすること、ぎょせんそうりょうのごとくせよ。しょうもつ・じゅくもつ、ともにこのいをそんせよ。

つぎにしょちじ、くどうにありてしょうりょうすらく、あすはなんのあじをきっし、なんのさいをきっし、なんのしゅくとうをもうくると。『ぜんねんしんぎ』にいはく、「もつりょうならびにさい・しゅくのみすうをたするがごときは、ならびにあらかじめくすちじとしょうりょうせよ」と。いわゆる、ちじとは、つうす・かんす・ふうす・いの・てんぞ・しっすいあるなり。あじとすうとをぎじょうしおわらば、ほうじょう・しゅりょうとうのごんじょうはいにしょていせよ。しかるのちに、みょうちょうのしゅくをせつべんす。

○意訳

典座の職務内容を一昼夜を追って要約すれば、まず昼食が済んだら都寺・監寺など寺の総責任者をたずねて、翌日の調理に用いる食材についてお伺いを立てます。要するにお米や野菜などの量について確認をするのです。用いるべき食材が決まったなら、その食材をあたかも自分の目玉のように大切にしなさい。ちなみにこの語は、保寧山の仁勇禅師の「公の物品は、かけがえのない目の玉と同じくらい丁寧に扱いなさい」という言葉に由来します。その食材を、あたかも貴人の食事を扱うかのように敬い大切にしなさい。それは生ものも調理済みのものでも同様です。

次に、もろもろの知事職たちと庫裡で、明日はどんな献立にすべきか、どんな食材を用いるか、どんなお粥を用意するのかについて相談します。『禅苑清規』にも、「用いるべき食材や献立内容、調理数などの詳細を相談する時は、まず寺の責任者をはじめ諸知事たちと相談しなさい」と示されています。なお、知事とは都寺・監寺・副寺・維那・典座・直歳の六職です。献立や調理数が確定したら、住職の居室付近や雲水たちの寮舎などの壁面にかけてある厳浄牌に書いて掲示しなさい。昼食後には、まずこれらを行ってから、翌朝のお粥の準備を始めるのです。

○解説

この部分から、典座の職務内容についての具体的解説が始まります。通常「○○の一日」を紹介する場合、朝から夜まで順を追って進めていくのが普通でしょうが、『典座教訓』では昼食を終えたところから解説が始まっていることに注目すべきです。なぜならば、前日に献立を決める時点から、すでに調理が始まっているのです。考えてみればそれは一般の家庭でも同様で、前の日にスーパーで食材を買っておいたり、前の日にお米をといで炊飯器のタイマーをセットしたりしておかなければ、朝起きて朝食を作ることができません。ましてや禅寺のように規模の大きな調理となればなおさらです。典座の一日を解説するには、まさに『典座教訓』で書かれているように前日の午後から説明するのが最もわかりやすいといえます。

講義や解説書の中で、「道元禅師は実際には調理を行っていないのではないか?『典座教訓』にも調理技術の詳細や献立等に関しては触れられていないし、立場ある道元禅師が自ら台所に立っていたとは考えにくい」とおっしゃる老師も多く、特に反論も出ていないようなのでそれが定説になっているようですが、私はそうは思いません。調理のことを知らなかったら、前日の午後から解説をはじめるという発想は持てないのではないかと思うのです。むしろ、料理の素人であれば朝から夜まで順に解説する、という形をとるのが自然です。『典座教訓』が多く引用している『禅苑清規』を見ても、前日の昼から順を追うという形はとられていませんし、おそらく道元禅師のオリジナルアイデアだと思われます。(薄学な私の推論ですので、どなたか異を指摘して下さる方がおられましたらご教授下さい)私は道元禅師にある程度の調理知識や経験があったからこそ、このような構成になっているのではないかと推察いたします。この話題で母校駒澤大学に研究論文を出せるくらいのテーマですね。

さて、今回の本文には3つのポイントがあります。

まず、献立や食材について、典座が一人で決めないで諸役と相談をして決めるということ。

次に、食材を敬い大切に扱うべきであること。

3つめに、決定した献立は掲示して公表すること。

この3点について明日詳しく解説致します。

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